商標登録と化粧品の「成分・効能表示」や「薬機法」は関係ありますか?

商標登録と化粧品の「成分・効能表示」や「薬機法」は関係ありますか?

コスメブランドを運営していると、こんな疑問が出てきやすいと思います。

  • 商標登録した名前なら、パッケージにどんな効能を書いてもOK?
  • 「美白」「シワ改善」って商品名に入れちゃっていいの?
  • 商標と薬機法(旧薬事法)のルールって、どこまで関係あるの?

結論から言うと──

商標登録の可否を判断する「商標法」と、成分・効能のルールを定める「薬機法」は、基本的には別物の法律です。
ただし、「ネーミング」と「表示内容」が両方の法律にまたがるため、実務では切り離して考えられません。

この記事では、

  • 商標法が見ているポイント
  • 薬機法が見ているポイント
  • 商品名・ブランド名を考えるときに、どこに気をつけるべきか

を整理してお伝えします。


結論:法律は別だが、「名前」と「表示」が橋渡しになる

まず大きな整理としては、次のような関係です。

  • 商標法
    → その名前を「商標」として独占していいか?(自他商品識別機能があるか? 他人の権利を侵害しないか?)
  • 薬機法(旧薬事法)
    → 化粧品や医薬部外品の広告・表示として適切か?
    (誇大広告になっていないか? 医薬品レベルの効能をうたっていないか?)

なので、

  • 商標として登録できるか
  • 商品のパッケージやLPにその文言をどう書いてよいか

は、本来別々に検討が必要です。

ただし実務では、同じ「言葉」や「ネーミング」が両方の法律のチェック対象になるので、

「商標的にOKでも、薬機法的にはNG」
「薬機法的にはOKだけど、商標登録は難しい」

といったズレが普通に起こります。


商標法が見ているのは、「ブランド名として識別力があるか」

商標法の観点で商品名・ブランド名を見るときの主なポイントは、ざっくり言うと次のとおりです。

  • その名前が「自分の商品」と「他人の商品」を見分ける目印になっているか
    自他商品識別機能があるか
  • 単なる成分名・効能・品質・用途の説明になっていないか
    → 「成分・効能を普通に表示するだけ」の言葉は原則NG(商標法3条1項3号)
  • すでに他人が同じ/似た商標を登録していないか
    → 先願・先登録の有無

たとえば、

  • 「高濃度ビタミンC美容液」
  • 「美白クリーム」
  • 「シミ対策ローション」
  • 「シワ改善アイクリーム」

といった名前は、どの会社の商品かというより「どんな成分・効能の商品か」を伝えるだけの言葉なので、商標としては識別力が弱く、登録が難しくなります。

一方で、

  • 「ピテラ」
  • 「フラバンジェノール」
  • 「ミラクルブロス」

のような、造語・ブランド化された成分名は、商標として登録されている例もあります。


薬機法が見ているのは、「効能・効果の伝え方が適切か」

一方、薬機法の観点で商品名やパッケージの表示をチェックするときのポイントは、

  • 化粧品なのに、医薬品レベルの効能をうたっていないか
  • 実際には認められていない効能・効果を誇張していないか
  • 客観的な裏付けもなく「治る」「改善する」などと断定していないか

といった、

「何ができる商品なのか」の伝え方が誇大・虚偽になっていないか

という部分になります。

例えば、化粧品なのに

  • 「シミが消える」
  • 「しわが治る」
  • 「アトピーが完治する」

といった表現は、薬機法の観点から問題になりやすい表現です。

ここで重要なのは、

  • 商標登録されているからといって、その表現を広告で自由に使えるわけではない
  • 薬機法的にアウトな文言は、商標になっていてもアウト

という点です。


「商標としてOK」でも「薬機法的にNG」なケース

例えば、

「UV〇〇」「美白△△」

のような名前が、仮に商標として出願されたとします。

  • 商標法的には:登録できるケースもゼロではありません(「〇〇」「△△」部分に独自性があるなど)
  • しかし薬機法的には:場合により、化粧品(医薬部外品)に許されない効能表現を名称に含んでいるため、広告・パッケージ表示としてはNG

というズレが起こりえます。

例えば、「美白」の表現を用いる場合は、「※メラニンの生成を抑え、日焼けによるしみ、そばかすを防ぐ」といった”しばり表現”を併記する必要がありますし、肌本来の色そのものが白くなるかのような表現等は認められません。そもそも「美白」効果を謳うことができるのは「薬用化粧品(医薬部外品)」であって、一般化粧品では表現できません。つまり、薬機法上のさまざまなルールをクリアしなければ、広告表現として使うことができないのです。

この場合、

  • 商標登録されていても、薬機法上のNG表現は広告として使えない
  • 行政指導の対象になるのは「広告表示」であって、「商標登録の有無」ではない

という点を押さえておく必要があります。


「薬機法的には問題ない名前」でも「商標登録が難しい」ケース

逆のパターンもあります。

たとえば、

  • 「高保湿クリーム」
  • 「敏感肌用ローション」
  • 「毛穴すっきり洗顔」

のような名前は、

  • 薬機法的には:表現の仕方次第でグレーゾーンはあるものの、「一般的な効能説明」として成立しうる
  • 商標法的には:「質・効能・用途の普通表示」に当たるとして、商標登録が難しい

という位置づけになります。

つまり、

広告として使うだけならまだしも、「商標として独占する」ことはできない

というケースです。

ここで大事になるのは、

  • どの部分を「ブランドとして守りたいのか」をハッキリさせる
  • 成分・効能の説明部分は「説明文」「サブコピー」として扱う

という設計の考え方です。


実務でのおすすめ整理方法:「完全に分ける」のではなく「役割を決める」

コスメやサプリのネーミングでは、
成分名や効能ワードを商品名・シリーズ名に含めること自体はごく普通ですし、むしろマーケ的にも自然です。

ここで大事なのは、

「成分や効能を名前に入れるな」という話ではなく、
名前の中に「ブランドの核」と「説明寄りの部分」を意識して作っておくこと

です。

① ネーミングの中で「ブランドの核」と「説明部分」を意識する

たとえば、次のような名前を考えたとします。

  • 〇〇VC美白セラム
  • △△高保湿ヒアルロン酸ローション

実務では、これら全体を「商品名」として使って構いません。
ただ、頭の中では次のように分けておくと後々ラクです。

  • 「〇〇」「△△」
     → ブランドの核(コアになる造語・シリーズ名)
  • 「VC」「美白」「高保湿」「ヒアルロン酸ローション」
     → 成分・効能・カテゴリーを説明する部分

見た目として“完全に分離する”必要はなく、
法律上どう評価されるかを意識して設計しておくイメージです。

② 商標の観点でのメリット

商標審査では、

  • 説明的な部分(成分・効能・用途)
  • 造語やブランドらしい部分

を分けて評価します。

先ほどの例でいえば:

  • 「VC」「美白」「セラム」「高保湿」「ヒアルロン酸ローション」
     → 説明寄りで識別力が弱い部分
  • 「〇〇」「△△」
     → 造語として識別力のコアになり得る部分

このとき、コアの造語部分がしっかりしているほど

  • 全体としても識別力ありと見てもらいやすい
  • 仮に全体で拒絶されても、コア部分だけを別出願で押さえるなど“逃げ道”が取りやすい

というメリットが生まれます。

逆に、

  • ビタミンC美白セラム
  • レチノールシワ改善クリーム

のように、全部が説明っぽい言葉だけで構成されていると、
商標法3条1項3号の「品質・効能等の説明的名称」と判断されやすく、
審査で拒絶されてブランドとしての“軸”を守りにくくなります。

③ 薬機法の観点でのメリット

薬機法的な表現調整が必要になったときにも、

「ブランドの核」と「説明部分」が頭の中で整理されているかどうか

で、対応のしやすさが変わります。

たとえば、

  • 当初:〇〇VC美白セラム
  • 薬機法対応後:〇〇VCブライトセラム

のように、

  • 「〇〇」というブランドコアはそのまま維持しつつ、
  • 「美白」の部分だけを「ブライト」などマイルドな表現に差し替える

といった調整がしやすくなります。

ブランドの核さえブレなければ、薬機法対応で説明部分を変えても、ブランド資産は維持しやすい
──というのが、この「中で役割を決める」設計の一番のポイントです。


まとめ:商標と薬機法、それぞれの役割を分けて考える

最後に、ポイントを整理します。

  • 商標法と薬機法は別の法律
    → 商標登録されていても、薬機法NG表現は広告では使えない
    → 薬機法的に問題なくても、商標として登録できるとは限らない
  • 商標法のポイント
    → 自他商品識別機能があるか
    → 成分・効能の単なる説明になっていないか
    → 他人の登録商標とぶつからないか
  • 薬機法のポイント
    → 化粧品として許容される効能・効果の範囲に収まっているか
    → 医薬品的な表現・誇大広告になっていないか
  • 実務上のコツ
    → 「ブランド名(守る部分)」と「成分・効能の説明(調整する部分)」をきちんと分ける
    → 成分名・効能そのものは、ブランドの“軸”ではなく「サブコピー」に回す

専門家に相談できること

弁理士に相談すると、たとえばこんなサポートが受けられます。

  • 候補のブランド名・商品名が商標として登録可能かどうかの診断
  • 「どこまでがブランド名」「どこからが成分・効能表示か」の設計サポート
  • 既に運用中のネーミングについて、権利面から見たリスクの洗い出し
  • 必要に応じて、薬機法に詳しい専門家と連携した表示全体のチェック

「この名前、商標的に大丈夫かな?」と不安になったタイミングが、いちばん相談のしどころです。

なお、弁理士は法律上、薬機法に関するご相談についてはご対応できませんので、必ず専門の弁護士の方にご相談ください


商標は「名前を守る制度」、薬機法は「効能の伝え方を守る制度」。
役割は違いますが、どちらもあなたのブランドとお客様を守るための大事なルールです。

  • 何をブランドとして守りたいのか
  • どこまで効能を伝えたいのか

を整理しながら、両方の観点をうまくバランスさせていきましょう。