成分名や効能を商標登録することはできますか?コスメ・健康食品で注意すべきポイント

成分名や効能を商標登録することはできますか?コスメ・健康食品で注意すべきポイント

コスメやサプリ、健康食品の名前を考えていると、

  • 「ヒアルロン酸〇〇」って商標登録できるのかな?
  • 「美白」「シワ改善」みたいな効能をそのまま入れた名前は危ない?」
  • 「登録できないなら、その名前は使っちゃダメなの?」

とモヤっとすることが多いと思います。

成分名や効能は、独自性を訴求することで消費者のニーズを喚起する、まさに商品の「売り」になる部分なので、ここをどうネーミングに使うか・どこまで商標として守れるかは、早めに押さえておきたいポイントです。

この記事では、成分名・効能と商標登録の関係を、できるだけ専門用語をかみ砕きながら解説します。


結論:一般的な成分名や効能そのものは、原則として商標登録は難しい

まず結論から言うと、

  • 「ヒアルロン酸」「ビタミンC」「ナイアシンアミド」などの 成分の一般名称
  • 「美白」「保湿」「シワ改善」「毛穴ケア」などの 効能・効果そのものを示す言葉

を、そのまま商品名として独占的に商標登録することは、原則として難しいです。

理由はシンプルで、

誰もが説明のために自由に使う必要がある言葉を、1社だけの商標にしてしまうのはおかしい

からです。

これは、
商標法第3条第1項第3号
(商品の質・効能・用途などを普通に表示するにすぎない標章は登録できない)
という規定に基づく考え方です。

ただし、少し工夫すれば登録の可能性が出てくるケースもありますし、
「登録できない=使ってはいけない」ではありません。


解説:成分名・効能表示がなぜ商標登録で問題になりやすいのか

商標として登録されるための大前提は、

その名前が「自分の商品」と「他人の商品」を見分ける目印になっているか
= 自他商品・役務識別機能があるかどうか

です。

ところが、例えば次のようなネーミングはどうでしょうか。

  • 「ヒアルロン酸化粧水」
  • 「ビタミンC美容液」
  • 「シミ対策クリーム」
  • 「シワ改善アイクリーム」
  • 「エイジングケアセラム」

これらの言葉は、ほとんどが

  • どんな成分が入っているか
  • どんな目的・効能の商品か

を説明しているだけで、
「どこの会社のものか」を区別する力(識別力)はほとんどないと判断されてしまいます。

そのため、こうした

  • 成分名そのもの
  • 効能・用途をそのまま表す言葉

は、商標法第3条第1項第3号により、
「識別力がない」として原則登録NGという扱いになります。


登録が難しい/登録の余地があるもののイメージ

登録が難しい典型パターン

1. 成分名そのもの

  • 「ヒアルロン酸」
  • 「コラーゲン」
  • 「ビタミンC」
  • 「ナイアシンアミド」
  • 「レチノール」

いずれも業界全体でごく一般的に使われている「成分名」であり、
特定の事業者だけが独占できるものではありません。

2. 効能そのものを意味するもの

  • 「美白クリーム」
  • 「シミ対策ローション」
  • 「エイジングケア美容液」
  • 「保湿ミルク」
  • 「毛穴ケアパック」

「何に効くか」「どんな用途か」をそのまま表すだけの言葉は、
誰でも自由に使えるべき「説明用の言葉」という位置づけになります。

登録の余地が出てくるパターン

1. 成分名+造語・ブランド要素を組み合わせる

成分名そのものではなく、

  • 成分名+造語
  • 成分名をもじった造語+ブランド要素

のように、説明から一歩踏み出した“ネーミング”として成立させると、識別力が認められる可能性が出てきます。

イメージ:

  • 「VC+造語」(VC×××)
  • 「HYALU+造語」
  • 「RETINO+造語」 など

ポイントは、

成分説明ではなく、ブランド名らしい「固有の言葉」になっているか

です。

※成分(素材)名の商標登録例

商標登録番号権利者
MIRACLE BROTH\ミラクルブロス登録第4637216ラ メール テクノロジー インコーポレーテッド
ディープリフティカルコンプレックス登録第6747149ロート製薬株式会社
Lipophenol登録第6132346株式会社 サティス製薬
ブルーセラミド登録第6653679号他ロート製薬株式会社
フラバンジェノール登録第4580641号他株式会社東洋新薬
ピテラ登録第1715916号他ザ プロクタ- アンド ギャンブル カンパニ-
バルーンヒアルロン酸登録第5650710御木本製薬株式会社

※効能の商標登録例

商標登録番号権利者
スパルタ美白登録第6456779ビューティードア株式会社
年々美肌登録第6884847株式会社フヨウサキナ
ウォーターマスク効果登録第6148262株式会社 資生堂
則効登録第2131664株式会社ユイット・ラボラトリーズ
発酵エイジングケア登録第6860589株式会社シロク
エアリー保湿登録第6790166ロート製薬株式会社
水密つや肌登録第6984127株式会社アテニア

2. 長年の使用でブランドとして定着した成分名(3条2項)

もともとは造語として使い始めた成分ブランド名が、

  • 長期間の使用
  • 大規模な広告
  • 高い知名度

によって、
「その名称=特定企業の商品」と広く認識されるようになった場合には、
商標法第3条第2項(いわゆる「使用による識別力の獲得」)により、
登録が認められる可能性もあります。

ただし、これはかなりハードルが高く、
中小ブランドがいきなり目指すべきルートではなく、
「すでに有名になった後の追加的な保護策」と考える方が現実的です。

なお、成分表示欄においては、日本化粧品工業連合会(JCIA)が定めた「化粧品の成分表示名称リスト」に基づいて記載してください。


よくある誤解と正しい理解

誤解①:成分名を商標登録できれば、他社に一切使わせなくできる?

ほぼ不可能ですし、制度の趣旨とも合いません。

「ヒアルロン酸」「ビタミンC」のような一般名称を、
1社だけの商標として独占することは認められていません。

誤解②:「登録できない名前=使ってはいけない名前」?

使うこと自体は問題ありません。

  • 登録しづらい → 「独占権として保護しにくい」という意味であって、
  • 成分・効能表示として名称中に使うこと自体を禁じるものではありません。

むしろ、成分や効能をある程度説明することは、
コスメやサプリの世界では“当たり前に求められる情報”です。

大事なのは、

「どこまでを“ブランド名(商標)として守りたい部分”にするのか」

を意識してネーミングを設計することです。


実務での注意点:ブランド名と説明文を分けて考える

1. 「ブランド名」と「説明」をきちんと切り分ける

おすすめの設計は、

  • 軸となるブランド名(造語・シリーズ名・ハウスマークなど)
  • その下に置く、成分・効能を説明するコピー

という2階建て構造にすることです。

例:

  • ブランド名(商標で守りたいところ):
    LUMIÉRA(ルミエラ)
  • 商品名+説明:
    LUMIÉRA ビタミンC美容液 高濃度VC×美白ケア

この場合、

  • 「LUMIÉRA/ルミエラ」→ 商標として保護すべき“固有のブランド”
  • 「ビタミンC美容液」「高濃度VC×美白ケア」→ 説明文として自由に使う部分

という整理ができます。

2. 「成分+効能」だけのネーミングを“ブランドの軸”にしない

次のようなものをそのままブランド名として使うのは危険です。

  • 「ビタミンC美白」
  • 「ヒアルロン酸保湿」
  • 「レチノールリンクルケア」

理由は、

  • 登録しづらい(誰でも同じような名前を思いつく)
  • 他社も同じような表現を当然使ってくるので、差別化しづらい
  • せっかく育てたブランドを“独占権”として守りにくい

からです。

3. 成分名・効能は「サブネーミング」として活用する

成分や効能をどうしても前面に出したい場合は、

  • メインブランド(造語・シリーズ名)を別に作る
  • 成分・効能はサブネーミングや説明文でしっかり伝える

というバランスがおすすめです。


士業としての支援内容(どこを手伝ってもらえる?)

弁理士に相談すると、例えば次のようなサポートが受けられます。

  • 成分名・効能を含む候補名が
    商標登録できそうかどうかの事前診断
  • 一般名称が含まれているネーミングを、
    どう造語化・ブランド化すればよいかのアドバイス
  • 企業ブランド名(ハウスマーク)・シリーズ名(ファミリーネーム)・商品名(ペットネーム)の
    整理と「どこを商標で押さえるか」の設計
  • 登録が難しいと判断された場合の、
    代替ネーミング案の検討・ブラッシュアップ

「これ、成分寄りすぎて危ないかな?」と思った段階で一度相談しておくと、
後から全面リネームする…という最悪のパターンを避けやすくなります。


まとめ:守るべきは「成分そのもの」ではなく、「その見せ方」

最後にポイントを整理します。

  • 一般的な成分名や効能そのものは、原則として商標登録は難しい
    (商標法第3条第1項第3号)
  • ただし、造語やブランド要素と組み合わせることで、登録の余地が出てくることもある
  • 「登録しにくい=使ってはいけない」ではなく、
    説明表現としては通常どおり使ってよい
  • 守るべきは「成分そのもの」ではなく、
    それをどのような“固有のブランド名”として見せるか

コスメやサプリのブランドづくりでは、

  • 成分・効能を分かりやすく伝えること
  • そのうえで、商標として守れる“ブランドの核”をきちんと用意すること

この両方が大事になってきます。

「お客さんにちゃんと伝わる」「法律的にもきちんと守れる」
そのバランスを意識しながら、ネーミングを設計してみてください。