ファッション業界では、ブランド名・ロゴ・デザインなどが直接「信用」と「価値」に結びつきます。
しかし、商標登録を軽視したままブランドを展開すると、思わぬトラブルに発展することがあります。
この記事では、アパレルブランドで実際に多い商標トラブルの例と、
それを防ぐための具体的な対策を解説します。
目次
結論:商標トラブルは「ブランド名の未登録」から始まる
アパレルブランドの商標トラブルは、
ほとんどが「商標登録をしていない」「出願が遅れた」ことを原因としています。
商標は「早い者勝ち」。
使っていたとしても、他人に先に登録されれば、その商標を使用できなくなる可能性があります。
よくある商標トラブルの実例
① 他社にブランド名を先取り登録される
アパレル業界で最も多いトラブルがこのケースです。
立ち上げ時からブランド名を使っていても、商標登録をしていないと他人に出願されてしまうことがあります。
実例:
- 個人ブランドがSNSで人気になった後、別の業者が同じ名前を出願・登録
- 本家ブランドが「商標権侵害」として警告を受け、ブランド名の変更を余儀なくされる
- ロゴ・タグ・ECサイト・SNSをすべて変更し、多大なコストが発生
ポイント:
商標は使用の早さではなく「出願の早さ」で権利が決まります。
使い始めと同時に出願しておくのが安全です。
② 海外でブランド名を奪われる(先取り登録)
日本で人気の出たブランド名を、海外業者が勝手に商標登録してしまうケースも非常に多いです。
実例:
- 中国・韓国・東南アジアなどで、現地代理店が同名ブランドを商標登録
- 現地での販売や輸出ができなくなる
- 偽ブランド(コピー品)が商標権者を名乗って販売
防止策:
- 日本で登録後、早期に「マドリッド協定議定書(マドリッド・プロトコル)」による国際出願や外国出願を検討
- 特に海外販売・製造(OEM)を行う場合は、主要国での出願が必須です。
③ 類似ロゴ・似たブランド名による混同
ロゴやブランド名が他社の商標と似ている場合、
「混同を招くおそれ」があるとして出願の拒絶や使用の差止請求を受ける可能性があります。
実例:
- 子供や母親向け被服・小物等を販売していたEC店舗が、商標権者から侵害警告を受けた → 店舗名を安心して継続使用できる状況でないと判断し、店舗名を変更
- スクール衣料の専門店がオリジナルキャラを使用していたところ、他者がキャラを模倣 → 著作権での模倣対策には限界があることから、商標出願を実行
防止策:
- 出願前に「J-PlatPat」で類似商標を必ず検索
- フォント・配色・図形の印象まで含めた「全体の類似性」をチェックする
- 弁理士による商標調査で、登録可能性を事前に診断する
④ OEM先・代理店に商標を取られる
製造委託(OEM)や販売代理を行う際に、
商標登録を怠るとパートナー企業にブランド名を奪われるトラブルもあります。
実例:
- 海外のOEM先がブランド名を自国で登録し、商標権者として主張
- 日本ブランドが輸出を止められる/契約を解除される
- 国内代理店が独自に商標登録し、本部が使えなくなる
防止策:
- 契約前に必ず商標出願を済ませる
- 契約書に「商標権の帰属は本部にある」旨を明記
- OEM先や代理店が商標出願を行わないことを契約で規定
⑤ 登録していたが「不使用取消」で失効
商標は登録後も「指定商品・役務に使っていなければ」権利を失うリスクがあります(商標法第50条)。
実例:
- ロゴをリニューアルして旧ロゴを使わなくなった
- 登録名と実際に使っているブランド表記が異なる
- 登録した指定商品・役務の範囲が、実際に使用する商品・役務をカバーできていなかった
- 他社から不使用取消審判を請求され、商標が取り消された
防止策:
- ロゴを変更したら新デザインでも再出願
- 旧ロゴは一部で継続使用する or 更新時に整理
- 指定商品・役務が、使用する商品・役務をカバーできているか常に確認(カバーできていないなら、追加で商標出願)
- 使用実績(広告・タグ・販売ページなど)を定期的に記録
トラブルを防ぐための基本対策
| 対策項目 | 内容 |
|---|---|
| ブランド名を決めたらすぐ出願 | 「立ち上げ前出願」が最も安全 |
| ロゴと文字商標を両方登録 | 見た目・名称の両方を保護 |
| OEM・販売契約前に権利関係を明確化 | 商標権の帰属を契約で明記 |
| 海外での販売予定がある場合は早期国際出願 | マドリッド協定議定書(マドリッド・プロトコル)を活用 |
| 使用実績を保存 | 不使用取消の防止策として重要 |
よくある誤解と正しい理解
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| SNSで使っているから自分の権利になる | 登録しなければ法的権利は発生しない |
| 日本で登録すれば海外でも使える | 各国での登録が必要(マドプロ出願を活用) |
| 小規模ブランドには関係ない | 小規模ほど模倣・先取り登録のリスクが高い |
| デザイン変更しても同じ登録で守られる | 社会通念上同一でない限り、新たに出願が必要 |
専門家に相談するメリット
弁理士に相談すれば、以下のようなサポートを受けられます。
- ブランド名・ロゴの類似商標調査
- 登録可能性の診断とリスク分析
- 国内・国際出願の戦略立案
- OEM・代理店契約書の商標条項レビュー
- 不使用取消や侵害対応のアドバイス
まとめ
アパレルブランドの商標トラブルは、次のようなケースで多発しています。
- 他社・海外業者によるブランド名の先取り登録
- 類似ブランド・ロゴによる混同や差止請求
- OEM・代理店による権利奪取
- 不使用による登録取消
ブランドを守る最善の方法は、
「使い始める前に出願し、継続的に管理する」こと。
ファッションブランドの価値は、デザインだけでなく「名前」に宿ります。
あなたのブランド名を資産として守るために──
商標登録をビジネス戦略の一部として位置づけましょう。
