アパレルや雑貨、化粧品などの分野でOEM(Original Equipment Manufacturing)を利用する企業や個人ブランドから、
「OEM先との契約で商標登録は必要ですか?」「登録しておくとどんなメリットがあるの?」という質問をよくいただきます。
結論から言えば──
商標登録は、OEM取引を安全かつ有利に進めるために非常に重要です。
商標登録があるかどうかで、取引の主導権やブランドの所有権、トラブル時の対応力が大きく変わります。
この記事では、OEM取引における商標登録の意義と実務的メリットを解説します。
目次
結論:商標登録があるとOEM取引で有利になる
OEM取引では、製造を他社に委託し、自社ブランドとして商品を販売します。
このときの「ブランド名」「ロゴ」「商品名」は、委託元(あなた)が商標権を持つことが前提です。
商標を登録していない状態でOEMを行うと、
製造業者側に商標を取られたり、ブランドの所有権が曖昧になるなどのトラブルが起こり得ます。
商標登録をしておくことで、次のような法的・実務的なメリットがあります。
商標登録がOEM取引で有利になる主な理由
① ブランドの所有権を明確にできる
商標登録をしておけば、そのブランド名・ロゴの権利者はあなた(委託元)であることが明確になります。
これにより、OEM先や協力会社が同じ名前を勝手に使うことを防げます。
もし登録していない場合──
OEM先が同じ名前で商標登録してしまうと、そのブランドは法的に相手のものとなり、
あなたが自社ブランドを使い続けられなくなるおそれがあります。
実際にあったトラブル例:
- 中国の製造業者が日本ブランドの商標を現地で先取り登録し、輸出が止まった
- OEM先が商標を取得してしまい、元ブランドが販売できなくなった
- 自社ブランド名を使ったEC出店が拒否された
こうしたリスクは、事前の商標登録で確実に防止できます。
② 取引交渉で主導権を握れる
OEM取引では、「ブランドを所有しているのは誰か」が交渉力に直結します。
商標登録を済ませておけば、契約時に「ブランドオーナー」としての地位を明確にでき、
ライセンス条件・製造範囲・ロイヤリティ設定などで優位に立てます。
登録がない場合、OEM先から
「商標が未登録ならこちらで登録しておきます」
と提案され、知らぬ間に相手の名義で登録されるおそれもあります。
これが後々の紛争の火種となります。
③ 品質管理・ブランド統一を契約上明確にできる
商標権者は、ブランド名を使う他者に対して「品質管理義務」を負います。
商標を登録しておくと、OEM契約書で以下のような条件を明確に設定できます。
- 使用許諾の範囲(どの商品・期間・地域で使えるか)
- 品質基準・検品方法・使用表示の位置
- 商標表示(例:「〇〇®」「〇〇™」の付記)
- OEM先が商標出願をしないこと
これにより、ブランドの品質・信頼性を維持しながら製造委託を行うことができます。
④ ECモールや海外販売時の権利証明になる
OEM製品をECサイトで販売する際、Amazon・楽天などのモールでは、
商標登録の情報を提出してブランド登録することで「正規ブランドオーナー」として認定される仕組みがあります。
さらに、海外展開時にも日本の登録商標を基礎として「マドリッド協定議定書(マドリッド・プロトコル)」に基づく国際出願(マドプロ出願)を行えば、海外でも同じブランド名を保護できます(ただし、締約国以外に出願する場合は、当該国に直接出願が必要)。
登録していない場合に起こるリスク
| リスク内容 | 具体的な影響 |
|---|---|
| OEM先が商標を先取り登録 | 自社ブランドが使えなくなる |
| 商標権者が不明確 | 契約・販売責任の所在が曖昧になる |
| ECモールで出品停止 | ブランド登録証がないと「正規販売者」と認められない |
| 海外でブランド名を奪われる | 現地で販売・輸出ができなくなる |
| 品質不良時にブランド価値が毀損 | 商標管理ができずブランド統一が崩れる |
実務での対応ステップ
- OEM契約前に商標出願を済ませる
出願しておけば、審査中でも「出願中のブランド」として主張可能。 - 指定商品を正しく選定する
例:洋服 → 第25類、化粧品 → 第3類、食品 → 第30類など。
OEM品が該当する商品区分を正確に選ぶことが重要です。 - 契約書に「商標権の帰属と使用条件」を明記する
商標権者は本部(あなた)であること、
OEM先は製造目的でのみ使用できることを明文化。 - 海外展開がある場合は早期に国際出願を検討
特に中国・韓国・台湾などでは、先取り登録が頻発しています。
よくある誤解と正しい理解
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| OEM取引では商標は製造会社が取るもの | ブランドオーナー(委託元)が権利を持つべき |
| 商標は販売開始後でも大丈夫 | 取引開始前の出願が安全 |
| OEM契約書があれば安心 | 商標登録がなければ法的独占権はない |
| 日本で登録すれば海外でも保護される | 各国での出願が必要(国際出願制度の利用が有効) |
専門家に相談するメリット
弁理士に相談すれば、
- OEM対象ブランドの商標登録可否・識別力の診断
- 適切な指定商品・役務の選定
- 契約書における商標権条項のレビュー
- 国際出願(マドリッドプロトコル)対応
など、OEM特有のリスクを包括的にカバーできます。
まとめ
商標登録をしておくことで、OEM取引において次のようなメリットが得られます。
- ブランドの所有権を明確にできる
- 契約交渉で主導権を握れる
- 品質管理・ブランド統一が図れる
- EC・海外販売時に「正規ブランド」として認められる
逆に、未登録のままOEMを進めると、
商標を奪われる・販売が止まる・ブランドが崩壊するなどのリスクが現実的に生じます。
あなたのブランドを守り、OEM取引を有利に進めるために──
商標登録は「契約より先に済ませる」ことが最も重要な一手です。
