個人でお店やサロン、講座などを運営していると、
「自分の名前をブランドとして商標登録できるの?」という質問をよくいただきます。
たとえば、
- 「山田花子サロン」
- 「めぐみデザイン」
- 「NAOKI COFFEE」
など、自分の名前を使った店名・ブランド名を保護したいというケースです。
結論から言えば──
自分の名前でも商標登録は可能です。
ただし、商標法上の登録要件(特に第3条第1項第4号・第4条第1項第8号)に注意する必要があります。
目次
商標法第3条第1項第4号:「ありふれた氏・名称のみでは登録できない」
商標法第3条第1項第4号では、次のように定められています。
「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は登録を受けることができない。
つまり、「佐藤」「鈴木」「Tanaka」「Yamada」など、
一般的に多く使われる氏・名称だけで構成された商標は、
識別力(他人のサービスと区別する力)がないため、登録できません。
しかし、以下のように独自の語句を組み合わせてブランドとして成立させると、識別力が認められる可能性があります。
登録が認められやすい例
「氏名」「氏(名)+業種・サービス内容」「氏(名)+造語」などの形にすることで、
「単なるありふれた氏・名称」ではなく「ブランド名」として機能するため、登録が認められやすくなります(ただし、氏名については後述の第4条第1項第8号に注意)。
実際に登録されている例:
- 「マツモトキヨシ」(登録第5282881号他)
- 「たかの友梨」(登録第5583765号他)
- 「鈴木シャッター」(登録第6349893号)
- 「佐藤流キッチンサイエンス」(登録第6031985号)
- 「田中貴金属」(登録第5883842号他)
- 「中屋彦十郎薬舗」(登録第3173072号)
- 「YAMADA BEE FARM」(登録第6039048号他)
- 「谷桃子バレエ」(登録第5986309号)
- 「りくろーおじさんの店」(登録第5923338号)
商標法第4条第1項第8号:「他人の氏名・芸名などを無断で登録できない」
商標法第4条第1項第8号では、次のように規定されています。
「他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)
若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
又は他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないもの」は登録を受けることができない。
簡単に言えば、他人の名前や芸名などを無断で商標登録することは禁止されることがあります。
たとえば次のようなケースでは拒絶されます。
- 「大谷翔平」「藤井聡太」「芦田愛菜」など、著名人の名前を含む商標を勝手に出願した場合
- 「Mrs. GREEN APPLE」「RADWIMPS」「Official髭男dism」「あいみょん」など、著名な芸名やグループ名、その著名な略称と紛らわしい名称の名前を含む商標を勝手に出願した場合
また、自分の本名や芸名であっても、同姓同名の著名人が存在する場合には、
「その著名人との間に相当の関連性」があり、かつ「商標登録を受けるのに不正の目的がない」場合でなければ、審査で拒絶される可能性があります。
実務での判断ポイント
| チェック項目 | 審査での判断 | 対応策 |
|---|---|---|
| 一般的な氏・名称のみ(例:佐藤、鈴木) | 第3条第1項第4号により識別力なし | 「〇〇式」「〇〇サロン」など独自の語句を追加 |
| 他人の著名人名・芸名を含む(同姓同名であっても同じ) | 第4条第1項第8号により拒絶 | 承諾を得る or 別名称に変更 |
| 一般的ではなく著名人にもいない氏名・ロゴ・造語的表現を含む | 識別力あり。登録されやすい | 出願を検討 |
登録を目指す際の工夫
- 氏(名)+業務・造語を組み合わせる
- 「めぐみデザイン」「Yamada Method」「Naoki Coffee」など
- ロゴ化・デザイン化する
- 文字商標で登録が難しい場合でも、ロゴ化すれば図形商標として登録できる可能性あり
- J-PlatPatで類似商標を検索
- 同姓同名や類似商標が登録されていないか確認
- 同姓同名の著名人がいないか確認
- 名前の混同リスクがある場合は、別要素を加えて識別力を確保
よくある誤解と正しい理解
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 自分の名前は誰でも使えるから登録できない | 自分の名前でもブランドとして使えば登録できる |
| 名前だけで出せば十分 | 一般的な名前のみでは識別力がなく登録できない(3条1項4号) |
| 他人の名前を含めても問題ない | 他人の氏名・芸名は承諾がない限り登録不可(4条1項8号) |
| 同姓同名の著名人がいても登録できる | 混同を招く場合は拒絶されることがある |
専門家に相談するメリット
弁理士に相談すれば、
- 自分の氏名を含む商標の登録可否調査
- 類似商標・著名人名との抵触リスク分析
- 第3条・第4条等に基づく拒絶リスクの回避提案
- ロゴ商標・造語化による登録戦略立案
といったサポートを受けられます。
まとめ
自分の名前でも商標登録は可能ですが、
次の2つの条文が大きなポイントです。
- 商標法第3条第1項第4号:ありふれた氏名のみでは登録できない
- 商標法第4条第1項第8号:他人の氏名・芸名などを無断で登録できない
つまり、
「自分の名前+識別力のある語句」でブランド化し、
他人の権利を侵害しない形で出願すれば、登録が可能です。
あなたの名前を、単なる「個人名」から「守られるブランド資産」へ。
商標登録で、名前を安心して使えるブランドに育てましょう。
