個人事業主やサロン経営者、飲食店オーナーなどからよくある質問のひとつが、
「屋号(お店の名前)も商標登録しておいた方がいいですか?」というものです。
結論から言えば、お店の名前をブランドとして長く使っていくなら、商標登録しておくことを強くおすすめします。
屋号は単なる「看板の名前」ではなく、集客や信用を支えるビジネスの顔だからです。
この記事では、屋号と商標の関係、登録の必要性、そして実務での判断ポイントを解説します。
目次
結論:屋号をブランドとして使うなら、商標登録しておくべき
商標は「商品やサービスの出所を示す標識」であり、
お店の名前もそれ自体が「サービスのブランド」として機能します。
特に、次のようなケースでは商標登録をしておかないと、他人に名前を奪われるリスクがあります。
- ネット上で店舗名を使って集客・広告をしている
- SNSやGoogleマップで店名を展開している
- 屋号を使って商品やサービスを提供している
- 将来的に支店やフランチャイズ展開を考えている
商標登録をしておけば、「その屋号を独占的に使える権利」が得られます。
屋号と商標の違い
まず、屋号と商標は似ているようで異なる概念です。
| 区分 | 屋号 | 商標 |
|---|---|---|
| 登録先 | 税務署など(開業届に記載) | 特許庁 |
| 法的効力 | 同名他社の使用を禁止できない | 同一・類似の商標を他人が使うのを禁止できる |
| 対象 | 事業者の呼称 | 商品・サービスのブランド名 |
| 保護範囲 | 法的保護なし | 登録された指定商品・役務の範囲で保護される |
つまり、屋号を開業届に書いても、その名前を法的に独占できるわけではありません。
他人が同じ名前を使っても、商標登録がない限り止めることはできないのです。
商標登録をしないリスク
屋号を商標登録しないまま使っていると、次のようなリスクが発生します。
1. 他人に先に商標登録される
商標は「早い者勝ち」の制度です。
あなたが先に使っていても、後から他人に登録されるとあなたがその屋号を使えなくなるおそれがあります。
2. 同名の店舗が現れて混同される
他の地域や業界で同じ名前の店が出てくると、顧客が混乱し、ブランド価値が下がります。
SNSや口コミサイトでは「どっちの店か分からない」というトラブルも起こりがちです。
3. 看板・ロゴ・ドメインの変更コストが発生
登録された屋号と同じ名前を使い続けると「商標権侵害」になるため、
店舗名・ウェブサイト・メニュー・名刺など、すべてを変更しなければならない可能性があります。
登録しておくメリット
屋号を商標登録しておくことで、次のようなメリットが得られます。
1. 名前を独占できる
登録した指定商品・役務の範囲内では、他人が同じ名前を使うことを禁止できます。
地域・業種を超えてブランドを守ることができます。
2. 顧客に「公式ブランド」としての信頼を与える
登録商標であることを示す「®」マークを付けることで、
「正式なブランド」「信頼できるお店」という印象を与えられます。
3. フランチャイズ・事業拡大がしやすくなる
商標があれば、他の店舗や企業に屋号を使わせる「ライセンス契約」や
「FC展開(加盟店展開)」が法的にスムーズに行えます。
4. ネット上の権利侵害に対応しやすくなる
SNS・Googleマップ・ECサイトでの模倣アカウントやブランドなりすましに対して、
削除申立てや法的対応を行う際の根拠になります。
登録時に注意すべきポイント
区分の選び方が重要
飲食店やサロン、販売業など、業種によって出願すべき「区分」が異なります。
| 業種 | 主な出願区分 |
|---|---|
| 飲食店・カフェ | 第43類(飲食物の提供) |
| 美容サロン・エステ | 第44類(美容・医療関連サービス) |
| 物販店・ネットショップ | 第35類(小売・通信販売) |
| 教育・講座系サロン | 第41類(教育・講義) |
複数業態で展開する場合は、複数区分を併願するのが安全です。
よくある誤解と正しい理解
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 「屋号を開業届に書けば守られる」 | 税務上の名称であり、法的な独占権はない。 |
| 「実際に使っていれば自動的に守られる」 | 商標は“登録した人”が権利者。使用実績だけでは保護されない。 |
| 「小さな個人店には不要」 | 個人店ほどブランドが侵害されやすく、被害時の影響も大きい。 |
専門家に相談するメリット
弁理士に相談すれば、
- 類似する屋号・商標の事前調査
- 適切な区分や指定商品・役務の選定
- 出願・登録手続きの代行
- 権利侵害時の警告・対応サポート
といった実務支援を受けることができます。
まとめ
お店の名前(屋号)は、事業の信用と集客を支える大切なブランド資産です。
- 開業届だけでは名前は守られない
- 商標登録すれば、同名の使用を防げる
- フランチャイズ展開・信頼向上にも効果的
屋号を本気で育てたいなら、「早めの商標登録」が最も確実なブランド防衛策です。
あなたのお店の名前を「看板」から「守られる資産」へ──。
開業初期の段階で商標登録を検討しておきましょう。
