商標法第52条の2の不正使用取消審判──併存する商標の“悪質な”使い方を止める手段

商標法第52条の2の不正使用取消審判──併存する商標の“悪質な”使い方を止める手段

商標法第52条の2の不正使用取消審判とは?

同一・類似の商標が、同一または類似の商品・役務について別々の権利者に帰属してしまうことがあります(コンセント登録、同日出願の調整、権利の承継・移転など)。
この併存状態のもとで、一方の権利者が不正競争の目的で商標を使い、その結果、他方の権利者(またはその使用権者)の商品・役務との混同を生ずるような使用を行ったとき——この登録を取消せるのが「不正使用取消審判」(商標法第52条の2)です。


不正使用取消審判の“入口条件”(併存が生じた事情)

まず前提として、商標の併存が次のいずれかの事由により生じていることが必要です(商標法24条の4各号):

  • 4条4項による登録(コンセント制度の活用など)
  • 8条1・2・5項ただし書による登録(同日出願の調整・承諾等)
  • 登録査定/審決謄本送達後に、出願により生じた権利が承継されたこと
  • 商標権の移転

この結果、同一(または類似)商標が、同一(または類似)商品・役務について、異なる商標権者に属している——ここがスタートラインです。


取消の要件(商標法52条の2 本文)

上の前提を満たしたうえで、次の三点が成立するとき、何人でも取消審判を請求できます。

  1. 誰の使用か:取消の対象となる一方の登録商標の商標権者が使用していること(専用使用権者・通常使用権者の使用は対象外)
  2. 目的:その使用が不正競争の目的によるものであること
    (例:相手の信用にただ乗りして顧客吸引を図る、相手の営業上の利益を害することを狙う等)
  3. 結果(性質):当該使用が、他方の登録商標の商標権者・専用使用権者・通常使用権者の業務に係る商品・役務との混同を生ずるものになっていること

ポイント:24条の4が「混同防止表示の付加を求める予防・是正的制度」なのに対し、52条の2は「不正競争の目的による混同的使用が顕在化した場合の制裁的取消」です。


請求人と取消の範囲

  • 請求人何人でも(特定の利害関係人に限定されません)
  • 取消の範囲:問題となる指定商品・指定役務の範囲に限って取消が可能

立証の勘所(実務)

1) 併存の事由
コンセント登録・同日出願調整・承継・移転等の経緯を証拠化。

2) 使用主体・使用態様
取消対象側商標権者自身の使用であること、使用の態様(広告・パッケージ・店舗表示等)。

3) 不正競争の目的
直接証拠が少ないため、周辺事実からの推認が重要。
例:相手の展開地域・チャネルへの意図的接近、相手表示を想起させる態様、共存合意の違反的利用など。

4) 混同の発生(蓋然性)
顧客問い合わせ、レビュー、SNS、誤陳列など、需要者が出所を誤る事例や蓋然性の証明。


商標法24条の4「混同防止表示請求」との使い分け

  • 混同のおそれ段階:24条の4による混同防止表示請求
  • 不正競争の目的の混同的使用段階:52条の2による取消審判

段階的に使い分けることで、相手方との関係や市場への影響をコントロールできます。

※「混同防止表示請求」についてはこちらを参照↓

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まとめ

商標法52条の2の不正使用取消審判は、

  • 併存状態
  • 不正競争の目的による混同的使用
    が揃った場合に、誰でも請求できる登録取消制度です。

特に併存・共存を前提とした契約や運用では、この規定を視野に入れた予防設計と監視体制が不可欠です。
弊所では、可否判断から証拠収集、審判戦略までサポート可能ですので、お困りの際はご相談ください。