商標の混同防止表示請求とは?──権利が別人に渡ったときのブランド保護策

商標の混同防止表示請求とは?──権利が別人に渡ったときのブランド保護策

同じ又は類似の商標権が複数の権利者に分かれてしまったとき、消費者や取引先が「どちらが正当な権利者かわからない…」という状況が起きる可能性があります。この場合、市場での混乱や顧客の誤認が生じるおそれがあります。
このような混同リスクを回避するために、商標法第24条の4では混同防止表示請求という制度が定められています。

本記事では、この制度の要件や使える場面、実務上の注意点を弁理士が解説します。


混同防止表示請求とは?

商標法第24条の4は、次のような場合に他の商標権者や専用使用権者に対して「混同を防ぐ表示」を付けるよう請求できると規定しています。

要件
同一商品・役務に使用する類似の登録商標、または類似商品・役務に使用する同一または類似の登録商標に係る商標権が異なる商標権者に属することになった場合

その使用によって、他方の業務上の利益(当該他の登録商標を使っている指定商品・役務に限る)が害されるおそれがある場合


混同防止表示請求ができるケース

次のいずれかの事由により、同一または類似の商品・役務について、同一または類似の登録商標が別々の権利者に帰属することになった場合です。

  1. 商標法第4条第4項の規定により商標登録がされた場合
    (例:コンセント制度の利用(先行商標権者から登録承諾を受け、かつ混同を生ずるおそれがないと判断された場合))
  2. 商標法第8条第1項ただし書、同第2項ただし書、同第5項ただし書により商標登録がされた場合
    (例:複数の出願が同日にされた場合の調整や、コンセント制度による登録)
  3. 登録査定・審決後に商標登録出願により生じた権利が承継された場合
  4. 商標権が移転された場合
    (例:権利譲渡や事業譲渡、会社分割など)

このような場合に、一方の商標の使用が他方の業務上の利益を害するおそれがあるとき、後者は前者に対して混同防止表示の付加を請求できます。


制度の趣旨と効果

混同防止表示請求は、商標権の併存状態が生じた際に、消費者や取引先が混乱しないようにするためのものです。

例:

  • 分割移転により、A社とB社が似た商標を異なる商品に使用することになった
  • コンセント制度の利用により、類似商標が別々の事業者に登録された
  • 登録後に事業譲渡で商標権が分かれた

こうした場合、当店は○○株式会社とは営業上・組織上関係ございませんといった表示を求めることができます。


表示の具体例

混同防止表示は、必ずしも大げさな表示である必要はありません。
工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕によれば、

「一般需要者が取引上の通常の注意力をもって自他識別し得る程度のもの(例えば自己が業務を行っている地域の地名等を付して需要者の注意を促し得るもの等)であればよい」

とされています。

実際に考えられる表示例

  • 地域名の付加:「〇〇(東京)」
  • 業態の明示:「〇〇(カフェ事業部)」
  • 提供地域・販売網の明記:「関西限定販売 〇〇」

要は、顧客が「これは別会社の製品(サービス)だ」と自然に気づける程度の表示で足ります。


実務上のポイント

  • 害されるおそれ」の段階で請求可能です(実際の混同発生は不要)
  • 表示の内容は、一般の需要者が区別できる程度であれば足ります
  • 実際の使用状況を踏まえ、混同防止表示の位置・方法を具体的に提案すると交渉がスムーズです
  • 混同防止表示請求は権利行使の一環であり、ビジネス関係悪化を避けるためにも、文書で根拠と内容を明記するのが望ましいです

まとめ

混同防止表示請求は、同一・類似商標が異なる権利者に帰属する特別な状況で、顧客の混乱を防ぐための実務的なツールです。
適切な表示を求めることで、自社ブランドの独自性や信頼を守ることができます。

弊所では、

  • 混同防止表示請求の可否判断
  • 表示内容・方法の具体案作成
  • 相手方との交渉サポート

までワンストップで対応しています。
「最近、他社の商標使用で混同されている気がする…」と感じたら、早めにご相談ください。