商標登録前の無断使用にも補償請求できる!?「金銭的請求権」活用ガイド

商標登録前の無断使用にも補償請求できる!?「金銭的請求権」活用ガイド

商標登録出願後、正式に登録される前の段階においても、出願人の業務上の信用が損害を被る事態を未然に防ぐため、一定の要件を満たせば「金銭的請求権」を行使できます。


1. 制度の目的と概要

  • 商標登録出願後、登録前であっても、出願人の業務上の信用が保護されるべきとされる場合に、警告後の商標使用者に対し業務上の損失に相当する金銭の支払を請求できる制度です。
  • 特許法の補償金請求権に類似するものですが、「実施料」ではなく「業務上の損失相当額」が請求対象となる点が異なります。

2. 請求権成立の要件

以下のすべてを満たす必要があります:

  1. 商標登録出願後に、出願に係る内容(標章や指定商品・役務など)を明示した書面による警告を行う
  2. 警告後、商標権の設定登録前に、出願に係る商標を指定商品・役務で使用されたこと
  3. その使用により出願人に業務上の損失が発生していること

さらに、請求権を行使できるのは、商標が正式に登録された後に限られます(登録前には請求できません)。


3. 請求額と消滅要件

  • 業務上の損失に相当する金銭額が請求対象(特許の実施料とは異なる)。
  • 請求権は、商標登録が放棄・拒絶・取消・無効審決等により最終的に登録されなかった(登録が維持されなかった)場合には初めから存在しなかったものとみなされます
  • また、登録後3年間行使がなければ時効により消滅します。

4. メリットと注意点

メリット

  • 正式に商標登録される前でも、出願によって蓄積された信用を保護可能。
  • 警告のみで法的請求が成立する余地があり、事前交渉の武器になります。

注意点

  • 警告は必須であり、相手の認識を得ないまま請求することはできません
  • 出願人自身が商標を使用しており、実際に損失が発生していることが前提。
  • 類似商標や類似商品の使用についても、一定条件下では請求対象となり得ます。
  • 出願公開や警告内容の開示の仕方によっては、相手を刺激して審査段階での情報提供や登録後の異議申立て・無効審判請求を招くリスクもあります。

5. 実務上のフロー(簡略)

ステップ内容
① 出願商標登録の出願完了
② 警告書提示出願内容を明記した書面による警告
③ 商標使用相手が指定商品・役務に出願商標を使用(継続)
④ 登録完了商標が正式に登録される
⑤ 請求行使使用による損失金額を計算し、登録後に支払請求

6. まとめ

  • 商標法第13条の2は、商標登録前の段階における出願人の業務上の信用保護制度として、金銭的請求権を認める制度です。
  • 要件を厳密に満たす必要があり、警告・損失立証・登録完了後の行使など、実務対応には慎重な設計が求められます。
  • 戦略的に活用するには、弁理士と早期に連携し、警告内容や損失の証拠の準備を適切に進めることが重要です。