「商標権侵害で懲役10年!?」経営者も他人事じゃない“商標法の罰則”とは

「商標権侵害で懲役10年!?」経営者も他人事じゃない“商標法の罰則”とは

商標権侵害に“うっかり”は通じない!──商標法違反で科される罰則とは?

自社で作成した商品や広告に、他社の登録商標を使ってしまった…。そんなケースでも、商標法では重い罰則が科される可能性があります。商標権侵害は、民事上の損害賠償にとどまらず、刑事罰の対象となることもあるのですね。

しかも、「非親告罪」なので、突然摘発されることもある点に注意が必要です。

この記事では、侵害罪以外にも商標法78条から85条に定められた罰則の内容と、企業が取るべき対策について、弁理士の視点から詳しく解説します。

※ちなみに、2025年6月施行の改正刑法により、従来の「懲役刑」と「禁錮刑」が「拘禁刑」に一本化され、刑罰用語の表記が変更されました。

商標法の罰則制度(商標法第78〜85条)

商標権侵害の罪(第78条)

商標権や専用使用権を侵害した者には「10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金」、あるいは併科が科されます。法人等が関与した場合、3億円以下の罰金刑となる場合があります。

みなし侵害の罪(第78条の2)

商標法第37条に定めるみなし侵害行為(輸出・所持など)を行った者には「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」、または併科が科されます。

詐欺による登録等の罪(第79条)

詐欺その他の不正手段で商標登録、防護標章登録、更新等を受けた場合、「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」、法人等には1億円以下の罰金が科されます。

虚偽表示の罪(第80条)

登録されていない商標に「登録商標」の表示を行った場合や、登録された商品・役務以外にその表示を付した場合、「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」が科されます。

偽証等の罪(第81条)

特許庁等での手続において虚偽の陳述・鑑定などをした場合、「3ヶ月以上10年以下の拘禁刑」が科されます。ただし、異議申立ての決定や審決の確定前等に自白した場合は、その刑が軽減・免除されることもあります。

秘密保持命令違反の罪(第81条の2)

営業秘密など、特許庁から秘密保持命令を受けた情報を漏洩した場合、「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」、または併科が科されます。

両罰規定(第82条)

違反行為が法人や団体の業務に関して行われた場合、違反行為を行った個人(たとえば代表者や従業員)だけでなく、その法人や団体自体にも罰金刑を科すと定めています。法人などの事業主体が刑事責任の回避を目的に個人に罪を押し付けることを防ぐために設けられています。

この制度により、「法人の業務だから会社に責任はない」という逃げ道を防ぎ、組織としてのコンプライアンス管理責任を明確にする狙いがあります。これにより、違反行為を未然に防ぐ抑止力としての効果も期待できます。

過料規定(第83条)

偽証や手続妨害などに対して、10万円以下の過料が科される場合があります。

実務上の注意点

  • 故意の有無も重要:未必の故意(侵害のおそれを認識しながら調査せず実行)でも犯罪成立可能
  • 非親告罪:商標権者の告訴なしで警察・検察が捜査を開始可能
  • 罰金・拘禁だけでなく民事責任も重い:損害賠償(商標法38条の推定規定)、信用回復措置(商標法39条)など対応必須
  • 警告後の対応が不誠実だと刑事事件化のリスクが高まる

まとめ

  • 商標権侵害には最大10年の拘禁刑や最大1,000万円(法人は3億円)の罰金が科される可能性あり。
  • 非類似準備段階での使用準備にも罰則があり、詐欺・偽証など制度の悪用には厳罰。
  • 故意や過失が重視され、非親告罪ゆえ絶えずリスクが存在。
  • 商標リスクに備えるには、出願・使用前の調査・警告対応・早期弁護士相談が不可欠

商標に関する罰則は非常に重く、侵害行為のみならず、登録手続の不正や表示の誤り、準備行為までも処罰対象となります。非親告罪であるため、告訴がなくても摘発される可能性がある点に注意が必要です。

商標の利用・管理に際しては、弁理士と連携し、リスクの未然防止をすることが重要です。