「これって侵害?」特許庁の公式見解が得られる商標の”判定請求”とは?弁理士が仕組み・手続き・活用ポイントを解説

「これって侵害?」特許庁の公式見解が得られる商標の”判定請求”とは?弁理士が仕組み・手続き・活用ポイントを解説

「自社が使おうとしている文字やロゴは他人の登録商標を侵害するのか?」
こうした疑問を裁判より早く・低コストで解消できる制度が、商標法28条の〈判定請求〉 です。

特許庁の審判官3名が、一定の資料に基づき商標権の効力の範囲に属するか(商標どうしや商品・役務の同一・類似、商標の識別力等)を公式に判断してくれます。

以下では制度の概要、メリット・デメリット、手続きフロー、実務上の注意点をまとめます。

参考:特許庁「判定制度」公式ページ
https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/shubetu-hantei/index.html


1. 判定請求の概要

項目内容
法的根拠商標法28条(商品・役務の類似・商標の同一・類似、識別力等「商標権の効力」に関する判定)
目的登録商標と使用予定商標の同一・類似性
指定商品・役務の類似性
③登録商標の品質・内容表示該当性(識別力があるか)
等、商標権の効力について特許庁の公式な意見を求めることで、侵害リスク等を事前把握
請求人誰でも請求可(利害関係の有無を問わない)。
ただしガイドライン上、判定を求める合理的理由(自社使用計画・警告への対応など)を請求書に簡潔に記載することが推奨される。
効果特許庁が「商標権の効力の範囲に属するか」について記載した判定書を交付。
→裁判での証拠的価値は高いが法的拘束力はなし

2. 判定請求とその他制度の比較

制度根拠条文拘束力期間目安官庁手数料
判定請求商標法28条なし(参考資料)最短で3ヶ月40,000円
無効審判商標法46条登録を取り消す拘束力10〜12ヶ月55,000円+(区分数×40,000円)
侵害訴訟裁判所判決は拘束力あり1〜2年訴額に応じた印紙+弁護士費用

3. 判定請求のメリット・デメリット

メリット

  1. 短期・低コスト中立・公平な立場での見解が得られる
  2. 専門性:高度な専門性を有する3名の審判官が判断 → 取引先への説得資料に
  3. 侵害リスクの早期回避:裁判前に撤退判断が可能

デメリット

  1. 法的拘束力がない → 判定書は裁判所を拘束しないため、後日の訴訟で結論が変わる可能性がある
  2. 証拠提出義務が限定的 → 当事者対立型ではあるが、裁判のように強制的な証拠開示手段(文書提出命令など)はない。被請求人が十分な資料を提出しない場合、実態把握が不十分になる恐れ
  3. 判定書は原則公開(営業秘密は秘匿申請可)
  4. 不服申立ては不可 → 判定の結論に対して不服申立てはできない

4. 手続フロー

手続期間は最短で3ヶ月程度が目安。手数料は40,000円

ステップ内容
判定請求書の提出請求人が特許庁へ電子または書面で請求。対象の商標(イ号標章)と登録商標、使用商品・役務と指定商品・役務の対比を明らかにする
答弁指令(被請求人への通知)特許庁が被請求人(商標権者など)に請求内容を送付し、30日以内に答弁書提出を指示
答弁書提出・双方資料を精査し、必要に応じて追加照会
・書面審理が中心だが、当事者参加型の意見聴取も可能
合議体(審判官3名)による審理書面審理・追加照会
判定書作成合議体が結論と理由をまとめる
判定書送達・請求人・被請求人双方に正式送達
・判定書の内容はJ-PlatPatで公開(秘匿請求部分を除く)

5. 必要書類

  • 判定請求書(特許法施行規則様式第57)
  • 登録商標公報・登録証写し
  • 比較対象商標の見本(使用態様)、指定商品・役務の説明資料等の証拠資料

6. 実務ポイント

  1. 請求の理由を詳細に記載:判定請求の背景事情、イ号標章(対象商標)の説明や登録商標との対比、商標権の効力の範囲に属するか否かの説明を記載
  2. 判定後の行動計画:非類似→使用・出願、類似→文字やデザインの変更、ライセンス交渉、無効審判請求
  3. 秘匿申請の活用:非公開にしたい営業秘密情報は黒塗り可能

まとめ

  • 商標法28条の判定請求は、商標権の効力について行政が公式見解として示す制度。
  • 最短3ヶ月・40,000円で結論を得られ、裁判前のリスク評価に最適。
  • 拘束力はないため、判定結果を踏まえ無効審判や訴訟への展開を想定し、事前に弁理士と戦略を立てることが重要です。