海外ECやクラウドファンディングの台頭で、国内ブランドでもあっという間に世界へ広がる時代になりました。ところが海外には「先願主義」を徹底する国が多く、出願が一歩遅れただけで自国ブランドを奪われるリスクがあります。
日本で登録済みでも海外ではまったく守られません。そこで必須になるのが 外国出願。本記事では、商標専門弁理士が3つの出願ルートを俯瞰し、実務でよく使う「マドプロ出願」「個別(各国)出願」を深掘りして解説します。
目次
1. 商標の外国出願ルートは3つ
ルート | カバー範囲 | 概要 |
---|---|---|
① マドリッド協定議定書(マドプロ)国際出願 | 指定した締約国(2024年5月30日現在115ヶ国) | 日本を窓口にまとめてWIPO(世界知的所有権機関)の国際事務局へ出願。費用と書類はワンパッケージ。 |
② 個別(各国)出願 | 出願した国のみ | それぞれの特許商標庁へ直接。現地代理人が必要。 |
③ 欧州連合商標(EUTM)出願 | EU27ヶ国一括 | EUIPO(欧州連合知的財産庁)へ1つの出願でEU全域をカバー。 ※本文では概要のみ触れます。 |
使い分けの基本
- マドプロ:多国展開を手早く進めるため、コストを圧縮したい
- 個別出願:ターゲット国が少数/マドプロ非締約国を含む
- EUTM:EU市場が主戦場で将来も域内の権利を維持したい
2. ルート別メリット・デメリット(概要比較)
観点 | マドプロ | 個別出願 | EUTM |
---|---|---|---|
費用感 | 基本手数料+指定国分 →国数が増えるとお得 | 国ごとに出願料・代理費用 | EU27ヶ国を一括。 ※1ヶ国あたりでは割安 |
手続き簡便性 | 書類・更新が一元化 | 国ごとに書式・言語 | EUIPO1ヶ所 |
拒絶リスク | 各国審査で拒絶可。 国ごとに登録 | 審査・拒絶は国単位 | 1ヶ国で拒絶→EU全域で拒絶 |
審査期間 | 指定国ごと(12〜18ヶ月) | 国によって大きく差 | 約3〜4ヶ月(方式と絶対的拒絶理由のみ審査) |
現地代理人 | 拒絶応答が必要なら必須 | 出願時点から必須 | 拒絶応答で必須 |
3. マドプロ出願の基本フロー
- 基礎出願/基礎登録
- 日本で商標を出願 or 登録済みであることが前提
- 日本の商標出願・商標登録を基礎としているため、これらが拒絶・取消・無効等されると、国際登録も取り消されてしまう(セントラルアタック)
- 国際出願書類をJPO(本国官庁)へ提出
- 主要情報:商標見本・指定商品役務・指定国リスト等
- 手数料(概算)
- 日本特許庁手数料:9,000 円
- WIPO基本手数料:653スイスフラン(商標が色彩付きでない場合)
- 指定国手数料:国ごとに100〜1000スイスフラン程度(分類数によって、それ以上になることもあり)
- 弁理士費用(弁理士に依頼する場合)
- WIPO(国際事務局)形式審査
- 書類OKなら「国際登録日」確定 → 公示
- 各指定国で実体審査
- 12〜18ヶ月以内に拒絶通報が来なければ自動登録
- 拒絶された国だけを分割して個別対応も可
- 保護期間・更新
- 国際登録日から10年ごと更新。更新もWIPO一括
4. 個別出願ルートの基本フロー
ステップ | 内容 | 期間目安 |
---|---|---|
① 先行商標サーチ | J-PlatPat + 各国データベースで類似調査 | 1〜3週間 |
② 現地代理人選定 | 信頼できるローカル弁護士・弁理士 | ― |
③ 出願書類作成 | 言語・商品役務区分を現地法に合わせる | ― |
④ 審査・公告 | 拒絶理由通知 → 応答(ローカル代理人) | 国により4ヶ月〜2年 |
⑤ 登録・更新 | 国ごとに10年更新/使用宣誓が必要な国も | ― |
費用イメージ(1区分・代理人費用なし)
- 米国:350USD(自由形式の指定商品・役務を記載した場合や、1,000文字を超える場合は200USD)
- 中国:270元(電子出願の場合。指定商品・役務10個までで、その後1商品・役務追加ごとに27元)
- 韓国:52,000ウォン(電子出願の場合)
※代理人費用・拒絶応答・翻訳・使用宣誓は別途。
5. 出願戦略を立てる5つのポイント
- ターゲット国リストアップ
- 実際の販売国 + 生産委託国 + 模倣品中継国。
- 区分・指定商品役務の整理
- マドプロは基礎出願と同一範囲。拡張したい場合は個別出願。
- ルートの組み合わせ
- 例:EU→EUTM、その他8ヶ国→マドプロ、東南アジア2ヶ国→個別。
- 言語・文化チェック
- 音訳・意訳で不吉/不快な意味にならないか。
- 更新・使用証拠要件の把握
- 米国・フィリピンなどは登録後数年で使用宣誓が必須。
6. よくある失敗例と対策
失敗パターン | 原因 | 対策 |
---|---|---|
先行出願に負けた | クリアランス調査不足 | 出願前に各国DB+現地サーチ会社で調査 |
現地言語でネガティブ意味 | ネーミング検証不足 | ネットで調査した上で、現地代理人・翻訳者に必ずチェック依頼 |
マドプロの基礎出願が拒絶、登録無効 | “セントラルアタック”により、マドプロの基礎出願・登録が拒絶・無効になったため、国際登録も取消 | 日本の基礎出願・登録の登録性を十分に調査する |
7. 費用と期間の概算(参考)
ルート | 出願国 | 初期費用目安 | 審査期間 |
---|---|---|---|
マドプロ | 米・中・韓 | 約20万円(+弁理士費用約20万円〜) | 1〜1.5年 |
個別出願 | 米・中・韓 | 約10万円(+現地代理人費用&弁理士費用約50万円〜) | 4ヶ月〜2年 |
EUTM | EU27ヶ国 | 約15万円(+現地代理人費用&弁理士費用約40万円〜) | 3〜4ヶ月 |
*費用は1区分・拒絶応答別・為替1USD≒150円、1CHF≒180円、1EUR≒170円で概算
*別途現地代理人費用と、弁理士に依頼する場合は代理費用が発生するのでご注意ください
8. まとめと次のステップ
- まず商標監視:海外DBで先行登録を確認
- ルート選択:マドプロ・EUTM・個別をハイブリッド活用
- 弁理士に相談:国ごとの制度差・費用をシミュレーション
海外展開を見据えた商標戦略は スピードと計画性が命。
優先権主張を行う場合、日本国内での出願→6か月以内に海外出願が鉄則です。
不明点やリスクがあれば、お早めに商標専門弁理士へご相談ください。