審査官に“匿名チクリ”!?商標の情報提供制度を弁理士がわかりやすく解説

審査官に“匿名チクリ”!?商標の情報提供制度を弁理士がわかりやすく解説

「うちの商標にそっくりな商標が出願されている!」——そんなとき、まだ審査中なら審査官へ匿名で情報を送ることができる方法があります。それが商標の情報提供制度です。

費用をかけずに(※弁理士に依頼しない場合)第三者でも利用でき、誤った登録(過誤登録)を防ぐための“早期アラート”として機能します。

本記事では制度の仕組みから提出書類の書き方まで、商標専門弁理士がやさしく解説します。


1. 情報提供制度とは?

項目概要
根拠条文商標法施行規則第19条
目的審査官が職権調査だけでは把握できない事実を提供し、特定の登録要件商標法3条、4条1項1号・6〜11号・15〜19号、7条の2①、8条②・⑤)を満たさない出願を的確に拒絶できるようサポートする
請求人匿名・個人・法人いずれも可
費用0円(特許庁手数料なし)
※弁理士に手続きを依頼する場合は報酬が発生
提出タイミング出願が特許庁に係属中(審査中)に限る
※拒絶確定後・登録後・取下げ/放棄後は不可
提出書類名刊行物等提出書(電子出願または紙)

2. どんなときに使う?

情報提供の対象になるのは 上記“特定の登録要件”に抵触しそうな出願です。主な例を条文別にまとめると――

該当条文具体例提供できる資料
3条(識別力欠如)商品「ゲーム用プログラム」や「ゲームの提供」を指定する、商標「ホラーストーリー」(「恐怖の物語(怖い話)」ほどの意味合いを理解、認識するにとどまる)(不服2024-014750業界記事・辞書、インターネットの検索結果、Webサイト記事等
4条1項1号(国旗等)
国旗に類似する商標が含まれた商標(不服2022-650055
旗章図版等
4条1項7号(公序良俗違反)周知・著名な歴史上の人物名の商標「魯山人」(不服2022-017511新聞記事・解説等
4条1項8号(他人の氏名・肖像)周知・著名な実在の人物名の商標「小室哲哉」(不服2022-007908本人公式サイト画像等
4条1項11号(先行類似)先行商標「恋苺」に類似する商標「はこだて恋いちご」(不服2024-008729先行商標公報等
4条1項15号(周知商標混同)「GODZILLA」と出所混同のおそれがある商標「GUZZILLA/ガジラ」(無効2019-890045周知性資料・売上データ等
4条1項16号(品質誤認)「木製パネルを用いた工法による建物や建築に係る役務」以外に使用する可能性のある、商標「ウッドパネル工法」(不服2015-014073業界記事・辞書、インターネットの検索結果、Webサイト記事等
7条の2①(地域団体商標)あるNPO法人が商標「熊谷染」を地域団体商標出願したものの、別の法人が同商標を長年使用して周知にしてきた経緯があった(無効2019-890046地域雑誌、周知性資料・売上データ等
8条②・⑤(同日出願)商標①「DIGITAL SUITE」を、類似する商標②「NEC Digital Suite」と同日に出願。協議不調のため”くじ”を実施したところ、商標②が選ばれた(不服2003-010512商標公報等

3. 提出のしかた

3.1 電子出願(推奨)

  1. 刊行物等提出書の書式を準備
  2. 対象出願番号(例:商願2025-123456)等の書誌事項を記載
  3. 提出の理由を記載
  4. 証拠物件を添付し送信

3.2 書面提出

  1. 上記1~3と同様
  2. 証拠資料を添付し、特許庁窓口へ郵送または持参
  3. 手数料不要

4. 審査官はどう扱う?

  1. 書類到達
  2. 職権調査だけでは知り得ない情報かを確認
  3. 添付資料で事実が裏付けられていれば 審査の参考資料として採用
  4. 妥当と判断した場合 → 出願人へ拒絶理由通知
  5. 採用しない場合 → そのまま審査続行(提供者への通知はなし)

5. 異議申立て・無効審判との比較

制度タイミング手数料利害関係要件主な効果
情報提供審査中0円*不要審査官の参考資料 → 拒絶理由に反映
異議申立て登録後 2 か月3,000円+8,000円/区分不要登録取消
無効審判登録後いつでも(例外5年)15,000円+40,000円/区分利害関係人遡って無効

* 弁理士に依頼しない場合


6. 弁理士に依頼すると?

  • 条文適用を整理し、説得力ある理由書を作成
  • 海外文献の翻訳・要約をサポート
  • 登録されてしまった場合の異議・無効審判も一貫対応

7. まとめ

  • 情報提供制度は 匿名・無料で“過誤登録”を防ぐ先制手段
  • 対象は 3条・4条1項1/6〜11/15〜19号・7条の2①・8条②/⑤ に該当しそうな出願。
  • 出願が特許庁に係属している間だけ提出可能。
  • 書類名は 刊行物等提出書、証拠を添付して審査官が確認できる形に。

気になる出願を見つけたら、早めに情報提供を活用し、自社ブランドを守りましょう!