※2020年6月30日配信メルマガVol.78より抜粋(一部加筆修正あり)
「商標出願は簡単、どこに頼んでも同じ」の嘘
商標出願って、どこに頼んでも同じように見えるから、
格安の事務所や大手の事務所、特許も商標もワンストップでやってくれる事務所、
はたまた近年登場したAI出願サービス等を利用したくなるみたいですね。
しかも、商標は特許に比べると書類の枚数が少ないせいか、片手間でできるイメージがあって、一見簡単そうに見えます。
でも、実際はそうではなく、「誰がやっても同じ」とはなりません。
弁理士のほとんどは「特許専門」か、「特許の片手間に商標」という業務形態です。
「商標専門」はごくわずか。
「商標専門」でも、大手や中堅の事務所に所属して、件数をこなすことに追われている人がほとんどで、
1件1件とじっくり向き合ってくれることが多くありません。
私のような「商標専門」で独立開業している変わった弁理士は、数えるほどしかいないのです。
そもそも、文系出身の弁理士受験者は、全体の2割にも満たないんですよね。
※参照:令和元年度弁理士試験最終合格者統計「12.出身系統別内訳」
https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-tokei/document/r01/r01_saisyu_goukakusha.pdf
文系出身の弁理士でも、特許その他の業務を行うことがあるので、「商標専門」となると少ない。
特許の方が単価が高いですし、技術分野に応じた専門スキルが求められますし、出願件数も特許の方が多いので、当然といえば当然です。
そのため、商標は簡単という先入観で、あまり深く考えずに出願されているものも…。
つまり、意外と願書に実力差が明確に表れています。
商標出願業務の実力差を見極める最大のポイント
では、「商標出願業務の実力差を見極める最大のポイント」は何だと思いますか?
登録率の高さ?
スピーディーな対応?
違います。
それは「指定商品・役務の内容」です。
登録率は、どんなに頑張っても100%にはなりません。
出願して2~3週間程度は内容が公開されないので、
その間に出願されたものは、検索に引っかからない以上、調べようがないのです。
スピーディーさも、
極端な話、お客さんにチェック項目と必要事項の入力をしてもらうだけにすれば、
数分で出願できます。
一方、「指定商品・役務の内容」は、権利の範囲を定める重要な要素です。
顧客の現在又は将来の事業や、事業の予定がなくても他者に取られると困る部分を広めにカバーするものであることが望まれます。
その上、出願で要求される指定商品・役務の表現には制限があり、区分も厳密に分かれています。
「類似群コード」と言われる類似/非類似のグルーピング等も意識しなければなりません。
それがわかっていないと、業務に関係ない指定商品・役務をメインに取得していたり、
カバーしていなければならない重要な部分が抜け漏れていたりします。
不用意な拒絶理由を食らうこともあります。
弁理士に依頼すれば安心…というわけでもない
弁理士に代理してもらったら安心というわけではなく、
そこまできちんとわかった上で、対応できる弁理士でないと、
ちゃんとした権利が取れないかもしれません。
(残念ながら、商品・役務の一覧表からババっと選んで済ませてしまっているであろう方もいます)
したがって、仮に私以外に依頼されるとしても、「商標専門」かどうか確認してから、その弁理士に依頼するのがいいですね。
また、いざ依頼した時には、出願前に弁理士から願書の内容確認を求められた際に「指定商品・役務の内容」を見て、
自社の事業内容と関係なさそうなものしか含まれていない場合は、
「うちはこういうことやるんですが、カバーできていますか?」など念押しして確認するといいでしょう。
ちなみに、私も顧客の業務と関係ないものを意図的に含めることがありますが、
関係性の濃いものから順に並べる工夫をしているのでわかりやすいはずです。
私が見かけた商標出願の失敗事例
1つ例を挙げますと、
相続手続関連の事業をしている士業が、
45類「相続手続に関する情報の提供」(42R01)を指定しておらず、
41類「相続及び資産承継に関する知識の教授」(41A01)のみ指定しているケースがあったりします。
特許庁がこの2つに異なる分類(&類似群コード)を付している背景から考えると、
両者は現時点で別のサービス(役務)として扱われているということです。
両者の違いが分かりますか?
文章を見ただけではわからないかもしれません。
42R01は、法律事務や手続の代理サービスに付されるコードなので、
45類「相続手続に関する情報の提供」は「具体的な(法的)手続のやり方等についてコンサルすること」を指していると考えられます。
一方、41A01は、様々な知識を教えるサービスに付されるコードなので、
41類「相続及び資産承継に関する知識の教授」は「相続等の一般的な知識を教室等で教えること」を指しているものと考えられます。
すなわち、前者(45類)は具体的な手続が目の前に控えている状況であるのに対し、
後者(41類)は知識一般を教えている状況である、という微妙な違いがあります。
士業の立場から見ると、
後者(41類)はフロントエンドのセミナーや相談会等で「集客(見込客フォロー)」して、具体的な手続の依頼等につなげる目的で指定するのに対し、
前者(45類)はバックエンドで手続のコンサルや代理サービスを「販売」する目的で指定することになります。
マーケティング視点では「集客(見込客フォロー)」と「販売」、どっちも必要ではないか、ということになるんですね。
それが、上の例では41類の方しか指定されてないので、他者に同じ商標で45類の方を取られてしまって、その商標を使った手続のコンサルや代理ができなくなってしまう恐れがあるのです。
もちろん、異なる区分に属するので、その分費用が余計にかかります。
だからどっちかにしてと言われると、より利益に貢献する45類の前者の優先度が高いわけですが、
私だったら中長期視点で「どっちも」おすすめするのです。
(※令和2年6月30日時点での情報に基づいており、区分の改訂により変更になる可能性があります)
まとめ
「指定商品・役務の内容」は、権利範囲を定める重要な要素です。
そんな「指定商品・役務の内容」をより良いものにするには、
「顧客(商標出願人)について理解していること」
「ビジネスについて理解していること」
「商標の業務に長けていること」
の3つが必要です。
この点が、「指定商品・役務の内容」が
商標出願業務の実力差を見極める最大のポイント
と私が考える所以となっています
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