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目次
★「Voicetech(ボイステック)」とは?
先日、音声メディアの「Voicy」が、
「Voicetech」という商標登録をしたというプレスリリースが、
PR TIMESに掲載されていました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000207.000021111.html
こちらの記事によると、
「テクノロジー分野の新たなカテゴリとして「ボイステック」を啓蒙」
するために商標登録したとのことです。
「ボイステック」という言葉は、
例えば、人の声を認識してテキストに変換したり識別したりする「自動音声認識」や、
「OK Google!」と言えば簡単に検索できる「音声検索」、
「Hey Siri!」と話しかけると対話してくれる「音声対話システム」などの技術に使われています。
https://voicy.jp/journal/category/trend/voice-tech/
音声の分野に革新的な変化をもたらす技術のことを指して用いているようです。
Voicyの緒方社長は、最近「ボイステック革命」という本も出版されているので、
そのタイミングでの発表をされたわけですね。
★新しい概念を表す言葉を商標登録する狙い
こういう新しい概念に名前をつけて、
商標登録するという戦略は、よくあることです。
例えば、「ボイステック」「フィンテック」「アグリテック」といった、
「〇〇テック」という言葉は、
総称して「xTECH(クロステック)」と名付けられていて、
日経ビーピーが商標登録しています。
それで「日経クロステック」というメディアサービスにつなげているんですね。
新しい概念って、世の中に浸透するのに時間がかかります。
つまり、市場ができていないので、いきなりそこでビジネスしても、
なかなか思うように行かないものなんですね。
そこで、競合も含めた多くの人や業者に、
新しい概念を表す言葉を使ってもらって、
業界全体を盛り上げることで、
市場を作り、自社サービスを売りやすくするんです。
そして、Voicyの場合は、
この「Voicetech」という言葉を商標登録した上で、
競合も含めてオープンにするので、
どんどん使ってくださいねと言っているわけです。
この取り組み自体は理解できるのですが、
実際の商標登録の情報を見て、
「これは注意が必要だな…」
と思ったので、この点についてご説明します。
★「ボイステック」利用上の注意点①
注意すべき点は2つあります。
まず、Voicyが登録した商標は英文字の「Voicetech」であり、
カタカナの「ボイステック」ではないことです(商標登録第6321124号)。
もちろん、こちらの英文字の表記は、
「ボイステック」と読むことができるので、
類似の範囲には含まれると考えられます。
しかし、あくまで登録したのは英文字の方であって、
カタカナの「ボイステック」を積極的に使っていい理由にはならないんですね。
それなのに、Voicyのプレスリリースには、
カタカナの「ボイステック」の権利を取ったかのように表示しているので、
不正確であるということです。
もしカタカナの「ボイステック」を、権利とったから自由に使っていいよと、
商標権者の立場で言うのなら、
カタカナでも登録しておくべきです。
今回の場合は当てはまりませんが、
仮に英文字からカタカナの読み方が直ちに出てこないような場合は、
他者に権利を取られてしまうこともあるので、
この点はしっかり認識した上で、
権利取得を進める必要があります。
以上より、Voicyが使用許可できるのは、
あくまで英文字の「Voicetech」であって、
カタカナの「ボイステック」を自由に使えるわけではない点に注意です。
★「ボイステック」利用上の注意点②
そして、2点目ですが、
Voicyは、41類の「セミナー」などの分野でしか登録していないことに要注意です。
商標は、使用する商品やサービスを指定して登録するものなので、
逆に言えば、指定していない部分は、
他者が自由に使用できるし、
他者が先に商標登録することもできます。
それで調査してみると、
なんと、実は別の会社が、カタカナの「ボイステック」を、
他の9類の「ソフトウェア」や35類の「マーケティング」、
42類の「SaaSの提供」などの分野で商標権取得しています(商標登録第6381177号)。
こちらの商標権者は、アイドマ・ホールディングスと言う、
ちょうど明日6月23日にマザーズに上場する会社です。
したがって、何か両社間で「ボイステック」の使用を許可するなどの約束がない限り、
これらの分野で無断で「ボイステック」を使えないことになるんですね。
つまり、Voicyが自由に使っていいよと言ってはいるものの、
Voicyの権利範囲外で「ボイステック」を使うと、
アイドマ・ホールディングスの商標権侵害になる可能性があります。
この点に十分ご注意ください。
★いい企業でも知財のリテラシーが高くない現状
最後に、Voicyはとても立派な会社ですし、
私もたまに利用させてもらっている、
素晴らしい企業です。
ただ、知的財産に関しては、
一流と言われる企業であっても、意外に穴があったりして、
商標を専門として仕事している身からすると、
ちょっとハラハラしてしまうことも多々あります。
これが今の知的財産に関する現状なんですよね。
残念ながらリテラシーが高いとは言えません。
もちろん、「問題が起きてないから大丈夫じゃないの?」
という意見もあるかもしれませんが、
「問題が起きないために商標権を取る」のであって、
今何も起きてないからOKというのは、
本末転倒になってしまうんですね。
Voicyはきちんと弁理士が代理してはいるんですが、
商標って、手続ができるだけではダメで、
相手のビジネスを理解した上で、
それに合った権利内容をアレンジできる能力が必要なんですね。
そして、見る人が見れば、権利内容を見ただけで、
「これは大丈夫」とか
「これはちょっといただけないな」
というのがわかってしまうものです。
したがって、商標登録を目指す際は、
こういった視点を持っている弁理士と組んで、
ある程度予算も確保した上で、
臨まれることを、おすすめいたします。
※配信時点の判例通説等に基づき、個人的な見解を述べています。唯一の正解ではなく、判断する人や時期により解釈や法令自体が変わる場合がありますので、ご注意ください。