持続可能なブランドコミュニケーションをつくる
「サムライツ™」の弁理士、保屋野です。
商標が似ているかどうかは、
主観で判断すると失敗してしまいます。
「採用の教科書」という商標が登録されました。
その後、別の権利者により「新卒採用の教科書」という商標が登録されました。
先に登録されていた「採用の教科書」側の権利者が、
それおかしくない?ということで、
「新卒採用の教科書」 の登録の異議申し立てを行いました。
結果、「採用の教科書」と「新卒採用の教科書」は類似しないと判断され、
「新卒採用の教科書」の登録がそのまま維持されることになりました。
特許庁審判官の判断によれば、
- 「新卒採用の教科書」…「新卒採用」の文字と「教科書」の文字が、助詞「の」で結合し、まとまりよく一体に把握される(分離できない)。
- 「採用の教科書」…「採用」の文字と「教科書」の文字が、助詞「の」で結合し、まとまりよく一体に把握される(分離できない)。
- 両方を比べると、見た目も似てないし、読み方も似てないし、言葉の具体的な意味合いは思い浮かばないから比較できない。
- だから、両商標は似ていない。とのことでした。
「新卒」は、単に商品やサービスの内容表示でなく、
「新卒」部分と「採用の教科書」部分は分離できなかったのですね。
みなさんはどう思いますか?
え、これは似ているのでは?と思う方も多いでしょうね。
「採用」の中には「新規採用」も「中途採用」も含まれるから、
上位概念と下位概念の関係として捉えれば、類似としてもよさそうなのですが、
商標の類似判断の世界では、そうはいかないのですね。
また、類似かどうかの判断は、時代や判断事例の積み重ねにより、傾向が変わることもあります。
そのあたりが一筋縄ではいかないのです!
商標登録したら、ここまで権利が及ぶだろう、とついつい万能に考えがちです。
大事なのは、
「出願前」に「登録した後」のことを考える
ことと、
「登録した後」に、権利の内容を見直し続ける
ことです💡
そのうち、「中途採用の教科書」が出てくるかも…と思ったら、
「採用の教科書」の権利者がすでに登録していました。
先取りされてしまった「新卒採用の教科書」の後に出願しているので、
この状況を教訓としたのかもしれません!
参考URL:
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/…/D437B9D673935B8D54CB960…
※【ここから追記】
その後、「新卒採用の教科書」の商標権は、「採用の教科書」の商標権者に譲渡されたそうです。
よって、「採用の教科書」「新卒採用の教科書」「中途採用の教科書」、すべて同じ権利者に帰属することとなりました。(「採用の教科書」の権利者さまより、直接ご連絡をいただきました。ありがとうございます。)
「採用の教科書」側としては、争う余地もあったとは思いますが、
時間や費用等も考慮し、対立のまま終結させるのではなく、
対話・交渉で円満な解決をされたとのことです。
こういった落とし所は、“商標の類否”以上に重要なところですよね。