・「やっぱり会計士は見た! 本当に優良な会社を見抜く方法」(前川 修満 (著))
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企業の財務諸表を通じて、その健全性や将来性を見極める方法を解説した一冊で、前回ご紹介した「会計士は見た!」の続編です。
ソフトバンク、ホンダ、三越伊勢丹、ZOZOTOWNなど、実際の企業の決算書を題材に、「本当に強い企業」と「危ない企業」の見分け方を紹介しています。
著者の会計士としての経験が活かされていて、この本を読むと、財務諸表の数字から企業の実態を読み解く方法がわかるようになります。
※2018年2月発売の本なので、当時の経済状況・企業の業績等を踏まえた内容になっている点にはご注意ください。
企業の収益構造の分析
ルノアールとドトールの違いを通じて、利幅や資本の回転速度の重要性を解説しています。
ルノアールのコーヒーは、ドトールのコーヒーと2倍以上の価格差があり、一見ドトールの方が不利に見えますよね。しかし、回転率で見ると、ドトールはルノアールを遥かに凌いでおり、業績でも大差をつけています(ビジネスモデルが異なるので単純比較はできませんが)。
他にも、トヨタや田崎真珠(現・TASAKI)といった企業の事例を挙げ、資本回転速度がいかに財務状況に影響を与えるかについてよく理解できました。
利益率と事業の持続可能性
ヤマト運輸がアマゾンから一部撤退した背景を、セグメント別業績から読み解いています。
全商品が一律の粗利益ではない以上、利幅の厚さを見るときは細分化して見ることが重要なんですね。そこで、事業の部門別やクライアント別に損益計算書を作って、赤字の箇所と原因を把握することで、それを除去して経営を立て直すことができます。
ヤマトにとって、アマゾンはデリバリー事業における最大の得意先でありましたが、利益減少の最大の要因にもなっていました。そこで、ヤマトはアマゾンの「当日配送」業務から撤退することにしたのです。
この英断の背景には、その40年前に業績悪化の原因だった三越の配送業務から撤退した歴史もあるそうです。
資本の回転速度と利益の関係
イオンの売上増加と経常利益の停滞を例に、設備投資の効果や金融事業の利益配分について考察しています。
設備の有効利用度を推し量る「有形固定資産回転率」という指標に着目し、イオンが設備投資額に見合う売上を上げることができていない現状が指摘されていました。
一方、広島に本社を構えるイズミというスーパーは、同じ期間でも「有形固定資産回転率」が低下しておらず、身の丈にあった投資活動を行い、堅実な経営を行っているという対比がされてわかりやすかったです。
「成長信仰」の落とし穴に気付かされる内容でした。
ROEの重要性
三越伊勢丹とZOZOTOWNの比較を通じて、株主資本利益率(ROE)が投資家にとって重要な指標であることを示しています。
「ROE」は「Return On Equity(株主資本利益率)」の略で、投下された株主資本(総資本-総負債)が利益獲得にどれだけ効率的に利用されているか(投資によりどれだけ利益を獲得しているか)を表す指標です。一般に、「ROE」が上がると株価が上がりやすい傾向にあるため、投資家に重視されます。
その顕著な例がアパレル業界で、ROEが低迷する三越伊勢丹の株価は下がり、ROEが倍々で増えるZOZOTOWN(ZOZO)の株価は倍以上に上がりました。
ROEが株価に与える影響がとてもよく理解できます。
自社株買いとROEの関係
花王とホンダの事例を用いて、潤沢な内部資金を活用した自社株買いがROEに与える影響を解説しています。
まず、ROEを上げるための方法として、
①売上高(純)利益率を上げる(利幅の厚い商売をする)
②総資本(資産)回転率を上げる(資本の回転速度を高める)
③自社株買いを行う
という3つの方法が紹介されています。
③の自社株買いは、既存の株主に対して出資された持分を払い戻す取引ですが、これにより資金は流出するものの、会社の株主資本が減少するため、ROE(株主資本利益率)を高めることができるのですね。
これにより、株価も上がりやすくなるメリットがあります。
そんな自社株買いによりROEを高めた企業の事例として、花王とホンダが挙げられています。
M&Aの成功と失敗
日本郵政の海外企業買収による損失や、ソフトバンクの大規模な投資活動を例に、M&A戦略の明暗を分析しています。
企業内部に巨額の資金が留保されている場合、
①自社株を購入するor増配する
②成長のための投資(M&A、設備投資)に回す
③そのまま貯め込む
の3つの使徒が考えられます。
このうち、②の投資の仕方(特に海外企業のM&A)を誤り巨額の損失を出した事例が数々紹介されており、会社を正しく評価できる「ものさし」を持たない企業のリーダーを批判しています。
そして、M&Aの成否を判別する方法として「ROA」の推移や、キャッシュ・フロー計算書を見る方法が紹介されています。
「ROA」は「Return On Assets(総資本利益率)」の略で、投下された総資本(負債+資本)が利益獲得にどれだけ効率的に利用されているかを表す指標です。
巨額の買収が行われるときは、買収先の純資産と買収価格の差が「のれん」として買収先の資産に計上されるため、総資本が膨らむことが多いのですね。したがって、買収金額に見合う利益が上がっているかどうかを確かめられるというわけです。
キャッシュ・フロー計算書は、
①営業活動CF…今日のお金を稼ぐ活動
②投資活動CF…未来のお金を稼ぐ活動
③財務活動CF…お金を調達・返済する活動
に分けてお金の増減を見ていきます。
M&Aの成否を判別するには、①と②が重要になります。つまり、②でお金を投資に回した結果、きちんと①の営業活動によりお金が増えていればいいわけですね。
そして、日本の経済全体に大きな影響を及ぼすほどの投資を行う企業として、英国ARM社を買収したソフトバンクの事例が紹介されています。
まとめ
本著では、会計や財務に詳しくない読者でも理解しやすいように、実際の企業事例を交えて解説されています。特に、ROEやキャッシュフロー計算書の重要性についての説明は、企業分析の基礎を学ぶ上で非常に参考になります。
本著を読むことで、経営者は自社の財務状況をより深く知ることができるようになりますし、株式投資家はファンダメンタルズ分析で財務諸表を読むのが楽しくなることでしょう。
企業の財務諸表を読み解く力を身につけたい方や、投資先の企業を見極めるための知識を得たい方にとって非常に有益な本です。
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