あえて特許出願せずに「秘密にする」理由

あえて特許出願せずに「秘密にする」理由

※2020年2月11日配信メルマガVol.58より抜粋(一部加筆修正あり)

特許出願でアイディアは守られない

「特許を出願すれば、アイディアが守られる」
という考えを持つ人は多いかもしれませんが、
幻想とならないよう、気をつけなければいけません。

というのも、特許は、出願すると一定期間経過後に技術内容が「公開」されることになりますが、
まだ出願の段階で特許にならないケースも多く
なおかつ、外国では特許出願をしていないことが多いので、
権利のない国で、その公開された出願情報を勝手に利用されても、
法的には問題がないのです。

日本の特許出願情報は海外から見られている

これをうまく利用して成功してきたのが、中国や韓国の企業です。
特にその立ち上げの時期において、技術を自分たちで作り出すのではなく、
外から技術を手に入れて事業に活用し、
規模を拡大
させてきたケースが多く見られます。

例えば、白物家電で世界トップシェアを誇る、中国の巨大メーカー「ハイアール(Haier、海爾集団)」。
その知財担当者が言うには、
「何台ものPCで、日米欧の特許庁の出願情報データベースにアクセスし、
製品化に役立ちそうな情報を利用しており、研究開発費が少なく済んでいる」
とのことでした。

韓国のサムスンも、自らのことを「ファースト・フォロワー」と言っています。
サムスンは、日本が市場を独占していたDRAMや、LCD-TV、NAND型フラッシュ等を次々に模倣してきました。
スマートフォン市場でも、サムスンの「Galaxy」は、アップルの「iPhone」の優位な点を分析し、
短期間で取り入れて
、「iPhone」よりも安い価格で販売することで、世界トップシェアを取るに至りました。
時にそれは、訴訟リスクを引き起こしましたが、
ユーザーが使い続ける限り、事業を継続できるのです。

「創造的模倣」する側からされる側へ

かなりグレーなこともしているので、心情的には支持したくないのですが、
彼らの取り組みを「創造的模倣」などと評する人もいます。

その是非はさておき、かつては日本も「創造的模倣」による勝者でした。
先のDRAMなんかは、元々Intelから模倣したものですし、
技術ではないですが、キャラクターなんかでも、不二家のペコちゃん・ポコちゃんは、
米国BIRDS EYE社の広告キャラクターであるMerryとMikeのコピーと言われています。

しかし、今や日本の戦略なき特許出願は、諸外国から模倣の対象となってしまい、
技術流出が止まらない状況となっています。

特許出願から特許後のコスト

実は、日本で特許出願されているもののうち、70%は国内出願だけにとどまっているので、
それらは全世界に向けて、「どうぞパクってください!」と言っているようなものなのです。
(米国や欧州は、50%くらい外国出願しています)
かと言って、あらゆる国に出願していたら、資本力のある大企業でない限り、お金がいくらあっても足りません。
日本の場合、言語の翻訳も必要なので、余計にコストがかかります。

しかも、出願して特許を取って終わり、ではないのです。
いざ特許侵害と思しき事案が生じた場合、
「使用をやめてください」と警告して、素直に引き下がってくれればいいのですが、
止めようとしないなら、裁判所に訴訟を提起する必要があります。
日本ならまだしも、海外となると一体いくら裁判費用がかかるのか、想像もつきません。

こうやって考えると、特許を出願し、特許を取ることすら、リスクに思えてきます。

特許出願だけでなく「秘密にする」ことも選択肢に

そこで、他社による創造的模倣への対応策を考えた時に、
「特許出願する(技術を公開する)」という選択肢以外に、
秘密にする」という選択肢も、ぜひ頭に入れていただきたいと思います。

もちろん、外から見てすぐにわかるようなものは、
秘密にしようがないので、特許を出願する意義があるのですが、
パッと見てもよくわからないものや、分析しても特定しづらいものであれば、
わざわざ特許出願書類で丁寧に技術を説明するよりも、
「秘密にする」ことに意義があるわけです。
意匠や商標のような、外から見てすぐわかるものは、逆に出願すべきですね)

コカ・コーラのレシピは社長も知らない

誕生から134年も経つコカ・コーラのレシピは、
ジョージア州アトランタにある博物館「World of Coca-Cola」内の、特別な施設の中に厳重に保管されています。
その内容を知っているのはたった数人と言われ、どの役職の誰が知っているかすら明かされていません。
社長ですら知らないそうです。
そういった秘密の管理が、長期にわたり競合優位性を築いた要因の1つにもなっているのではないでしょうか。

秘密を守るにもコストはかかりますが、
特許出願〜特許後のコストに比べたら、そこまでではありません。

情報がすぐ全世界に拡散される今の時代、
先々のことを考えて、何を公開して、何を秘密にするのかは、とても重要な判断になりますね。

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