結論:意匠の補正はできますが、目的は記載不備の治癒に限られ、範囲と時期に厳格な制限があります。ここでは、公的な取扱いに即して要点だけ押さえます。
補正の目的と大原則
- 補正の目的
意匠法における補正は、誤記や不明瞭な記載など出願書類の記載不備を治すための訂正・補充に限られます。 - 要旨変更は禁止
補正が要旨変更に当たる場合、審査官により補正却下となります。 - 「要旨」とは
その意匠の属する分野における通常の知識に基づき、願書の記載および願書に添付した図面等から直接導かれる具体的な意匠の内容を指します。
許容されやすい補正
次のいずれかに該当する補正は、原則として許容されやすい取扱いです。
- 当業者の通常の知識に基づき当然に導ける「同一範囲」への訂正
- 例:図面番号の取り違え、用語の表記揺れの整合、当初図から自明な範囲での視図の体裁整え(線の途切れ補修・陰影の統一など)
- 例:当初図面から一義的に読み取れる裏面の形状を、その読替えの範囲で明確化
- 要旨の認定に影響しない微細な記載不備の是正
- 例:反射・写り込みの除去、コントラスト調整等、形状情報を追加しない可読性向上
※実務メモ:部分意匠の実線部分の破線化は、基本的には要旨変更にあたります。唯一、当初図から境界が明確に読み取れるときに限り許され得ます。
却下される補正
以下に当たる補正は補正却下の対象です。
- 当業者の通常の知識で当然に導ける同一範囲を超える変更
例:新たな稜線・凹凸の追加、開口・曲率・輪郭の変更など外観印象を変える改変 - 出願当初は不明確だった要旨を“新たに明確化”する補正
例:当初図面では読み取れない形状を後から描き足す、別柄・別配置を差し替える - 意匠登録を受けようとする範囲の変更
例:物品→建築物/画像など対象の切替え、用途・機能が異なる物品への種目替え
いつまで補正できる?(時期の制限)
- 出願が「審査」「審判」又は「再審」に係属している間に限り補正が認められます。
- 係属が終了した後は出願書類の補正は不可です。登録内容に変更が必要な場合でも、意匠には訂正審判制度はありません。実務上は新たな出願等、別途の手当てを検討します。
実務でのチェックリスト
- 補正内容の確認:補正内容が当初の願書・図面等から直接導けるか?
- 要旨の維持:補正後も意匠の要旨(外観の具体的内容)が同一と言えるか?
- 時間管理:補正可能な期間内に提出。
まとめ
- 意匠の補正は記載不備の治癒が目的。
- 要旨変更は即・却下。要旨は当初書面と図面から直接導ける具体的内容。
- 許容:同一範囲内の訂正/要旨に影響しない微細な是正。
- 不許容:同一範囲超の変更/当初不明だった要旨の明確化/保護範囲の変更。
- 時期:事件が審査・審判・再審に係属中のみ。登録後の訂正審判は制度なし。
補正は“救済”である一方、線一本の扱いで結果が変わります。迷ったら、当初図面に支持があるか/要旨を動かしていないかの二点をまず確認してください。必要に応じ、補正案の可否判定→補正書の作成→意見書との組み合わせまで、実務に沿ってサポートします。