同じ・似た意匠が複数出願されたら?|先願主義(意匠法9条)をやさしく解説

同じ・似た意匠が複数出願されたら?|先願主義(意匠法9条)をやさしく解説

同じ(又は似た)デザインについて複数の意匠出願があるとき、最も早く出願したものだけが登録できる──これが意匠法の「先願主義」(第9条)です。
ここでは、審査での判断枠組み、同日出願の扱い、優先権主張や関連意匠との関係を、公的基準に沿って整理します。


何が「先願・後願」に当たるのか

  • 対象同一又は類似の意匠について、二以上の意匠登録出願がある場合
    ※意匠は「物品・建築物・画像(GUI 等)」を含む概念なので、比較はその意匠に係る対象(物品等)を踏まえて行われます
  • 判断:意匠の類否は、審査基準に従い、意匠の形状等全体の観察結果等に基づいて決せられます。
    • 全体意匠同士…意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似
    • 部分意匠同士…①意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似、②「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の用途及び機能が同一又は類似、③意匠全体の中での「意匠登録を受けようとする部分」の位置・大きさ・範囲が同一又はありふれた範囲内

結論:最先の出願のみが登録対象。後願は第9条により拒絶されます。後述の「関連意匠」の場合を除き、同一の出願人の間でも適用されます(先願と同一・類似の意匠出願は、たとえ同一出願人でも登録できない


「同日出願」になったときの扱い

  • 同じ日に、同一又は類似の意匠が複数出願された場合:
    • 特許庁長官からどちらか一方に決定するよう協議を指令されます。
    • 当事者間の協議で決定した方が登録を受けることができます。
    • 特許庁長官が指定する期間内に協議結果の届出がない場合は、いずれも登録できません
      (抽選や先着順にはなりません。)

実務上の注意:協議により登録を受ける方の意匠出願が決まって、その結果を届け出たとしても、他方の出願については、別途取下げか放棄の手続が必要です


「出願日」の考え方(優先権主張を含む)

  • パリ条約の優先権を主張したときは、同一性が認められる範囲で、優先日(第1国出願日)に出願したものと同等の扱いになります。
  • したがって、先願・後願の比較では、優先日を基準に先後関係が判断されます。

実務上の注意:優先権で覆えるのは同一性が認められる範囲のみ変更点が多いと、優先権主張の効果が得られず、先願関係の逆転に失敗することがあります。


第9条と「第3条の2(先願の一部との関係)」の違い

  • 第9条:先願の意匠全体と、後願の意匠全体が同一又は類似の場合に適用。
  • 第3条の2:先願の外観中の一部と、後願の意匠全体が対応する場合に適用。

使い分け:全体×全体なら第9条、全体×その一部なら第3条の2が基本線です。


先願主義と「関連意匠」(第10条)の関係

  • 通常、先願主義は同一の出願人の間でも適用されるため、先に出願した意匠と類似の意匠を出願すると、9条により拒絶されてしまいます。
  • しかし、自己の意匠(本意匠)と類似する意匠を「関連意匠」として、一定の期間内同一人が出願する場合は、例外的に登録を認められます(意匠法10条)。
  • 自社内の“似たデザイン”の二重出願は、むやみに別出願にせず、関連意匠として計画的に出願するのが先願主義対策として有効です。

よくある落とし穴

  • 社内・取引先の別名義で同一日出願
    → 協議・届出ができないと双方登録不可に。名義と順序を事前に設計。場合によっては、名義を統一させた上で関連意匠出願するのもあり。
  • 優先権の主張忘れ・範囲不同一
    → 先願逆転に失敗し、後願が第9条で不登録。優先範囲の整合を厳密に。
  • 自社の先願と衝突
    関連意匠を使えば登録可能な場合があるのに、通常出願でぶつけて自滅
  • 第3条(新規性)との混同
    → 先願主義(第9条)は出願と出願の競合の問題。出願前の公表・刊行物・ネット公開は新規性(第3条)の問題です。

実務チェックリスト

  • 競合調査:意匠出願は、登録されるか同日出願拒絶された場合を除き公開されないので、検索で調査することは実質的に困難なるべく早く出願するしかない
  • 出願順序:類似する意匠について複数出願する場合は、同時か少なくとも本意匠 → 関連意匠の順で計画
  • 名義管理:共同開発・委託時は出願人名義を契約で明確化
  • 優先権:パリ優先主張の要件・期限・範囲を事前に設計
  • 代替策:同日衝突した場合は、すぐにでも協議に向けて準備

まとめ

  • 同一・類似の意匠が複数出願されたら、最先の出願のみ登録(意匠法9条)。
  • 同日出願協議で一本化。届出がなければ全て不登録
  • 優先権主張で先後関係が変わり得る。
  • 自社内の類似展開は関連意匠で先願主義と両立させるのが定石。

案件ごとに最適な出願順序・名義・関連意匠の組み合わせは異なります。
当所では、先願主義・第3条の2・関連意匠を見据えた衝突回避の出願設計から、調査・図面監修・出願・審査対応まで一貫して支援します。まずは企画段階でご相談ください。