先に出願された意匠(先願)の「外観の一部」に同一又は類似な「後から出願された意匠(後願)」は、登録を受けられません。先願の未公表期間にこのような意匠が出願された場合、新規性を喪失(3条)したわけでもないし、先後願で排除(9条)されるわけでもありませんが、新しい意匠を創作したものとは認められないため、登録を排除するルールです。
目次
どんなときに適用される?
判断の枠組み
- 比較対象:
先願に係る「意匠として開示された意匠」の一部(=外観中の一つの閉じた領域)と、後願の意匠全体。模様だけ・形状だけ等の観念的な切出しは「一部」に該当しません。 - 要件:
- 先願に係る意匠として開示された意匠の中に、後願の意匠や意匠登録を受けようとする部分の全体の形状等が開示されている or 対比可能な程度に十分に表されている
- 比較する部分の用途・機能が同一又は類似で、かつ形態が同一又は類似
- 先願が全体意匠・部分意匠・組物意匠のいずれでも可能
適用される「期間」(時期的要件)
- 先願の出願日後から、その先願の意匠公報の発行日(同日を含む)までに出願された後願が対象です。
公報発行後に出願されたものは、3条1項2号・3号(刊行物記載・電気通信回線で公衆利用可能)で審査されます。
ただし書の例外(同一人の複数出願)
- 先願と後願の出願人が同一で、先願の公報発行日前に後願を出している場合は、3条の2の適用除外となります。公報発行後に出願されたものは、3条1項2号・3号(刊行物記載・電気通信回線で公衆利用可能)で審査されます。
「意匠の一部」の考え方(実務の勘所)
- 閉じた領域として意匠全体の中に読み取れる部分が対象。
例:形状と模様の結合からなる先願について、模様を除いた形状のみを別扱いにするような切出しは不可。 - 後願の意匠や意匠登録を受けようとする部分の全体形態が、先願の図面等の中に対比可能な程度に表れていることが必要。写真・図面の開示が不十分だと適用できません。
審査基準に挙がる典型事例
適用される例
先願 | 後願 |
![]() 「洗面化粧台」 (台の外観中に棚相当部分が読み取れる) | ![]() 「洗面化粧棚」 |
![]() 「のこぎり」 | ![]() 「のこぎり用柄」 |
![]() 「コーヒーわん及び受け皿」 (分離可能物品の一部) | ![]() 「コーヒーわん」 |
![]() 「電気掃除機本体」(部分意匠) | ![]() 「電気掃除機用ホース取付口」 |
![]() 「一組の飲食用具セット」(組物の意匠) | ![]() 「飲食用スプーン」 |
適用されない例
先願 | 後願 |
![]() 「噴霧器」 (先願の図面等に、後願全体意匠の形態が対比可能な程度に十分表れていない) | ![]() 「噴霧器の押し出しポンプ」 |
※画像はすべて意匠審査基準より引用
よくある疑問
Q1. 先願が「部分意匠」で、後願がその部分を“全体”として出願したら?
A. 先願が全体・部分・組物のいずれでも、先願の外観中の一部と後願全体を対比し、用途・機能と形態が同一・類似なら3条の2に該当します。
Q2. 先願の公報が出た後は?
A. 3条の2ではなく、3条1項2号・3号(刊行物記載・電気通信回線で公衆利用可能)として審査されます。
Q3. 自分が先にした出願が原因で3条の2に該当するのを避けるには?
A. 出願人が同一の場合は、先願の公報発行日前に後願を出すこと。これを満たせば3条の2の適用除外です(ただし他の拒絶理由は別途検討)。
実務対応のポイント
- 部分も守るなら、最初から部分意匠や関連意匠で出す:
自社の“要部”を後から第三者に抜かれないよう、基礎出願と併せて部分意匠・関連意匠を計画的に。審査では先願図面の「対比可能性」が重視されます。 - 同日・近接出願の整理:
自社内の重複・順序に注意。自社内であっても、公報後に別人名義で出すと3条の2の適用対象になり得ます。 - 図面の情報量を確保:
先願としての図面が「後願全体を対比可能な程度」に表しているかを意識。正投影図+必要図を適切に整備。
まとめ
- 趣旨:先願の「外観の一部」を、未公表期間中に第三者が“全体意匠”として先取り登録するのを防ぐ。
- 要件:先願の外観の一部と後願全体の用途・機能が同一・類似、かつ形態が同一・類似。
- 期間:先願出願日後〜先願公報発行日までの後願が対象。
- 例外:同一人による公報前の後願は適用除外。
どこまでを「一部」として読めるか、図面にどこまで“後願全体”が表れているかが勝負どころです。出願順序・図面設計・関連/部分意匠の組み合わせまで含め、計画段階からの設計が肝要です。