意匠の新規性とは|弁理士がわかりやすく解説

意匠の新規性とは|弁理士がわかりやすく解説

「公開してからでも意匠登録できる?」――結論は原則できません。日本の意匠法は、新しいデザイン(意匠)が出願前に公に知られてしまうと、登録を受けられないと定めています。本稿では、公的基準に沿って「新規性」の中身と実務の注意点を整理します。


新規性のルール(意匠法3条1項)

次のいずれかに当たると「新規性なし」と判断され、原則登録不可です。

  1. 公然知られた意匠
    出願前に、日本・外国のいずれであっても、不特定の者に秘密でなく現実に知られた意匠。展示会での公開、店頭販売、SNS・Web掲載(アクセス制限や秘密保持がない状態)などが典型です。
  2. 刊行物記載・電気通信回線により公衆利用可能となった意匠
    雑誌・カタログ・公報等に記載されたもの、インターネットで公衆がアクセスできる状態に置かれたもの(実際に閲覧された事実までは不要)。
  3. 上記1)・2)に掲げる意匠に類似する意匠
    同一だけでなく、類似の範囲まで新規性を失います(創作容易性とは別に、新規性の段階で類似も対象)。

補足:「出願前」かどうかの判断は“日”ではなく“時刻”まで考慮されます。午前に公開・午後に出願した場合は新規性喪失となります。


「公然知られた」の具体例と線引き

  • 展示会・発表会:招待制でも、出席者に秘密保持義務が課されていないなら原則「公然」
  • 店頭販売・配布:少量販売や限定配布でも、公衆が入手・閲覧し得るなら原則「公然」
  • Web・SNS:URL掲載・検索可能・リンク掲載等で、公衆がアクセスできる状態なら「公衆に利用可能」パスワード付きでも不特定者が取得可能なら同様に扱われ得ます。

先願との関係(公知とは別のNG)

先に出願された同一・類似意匠(先願)がある場合、出願競合の観点からも登録は受けられません。これは「新規性(公知・刊行物・ネット公開)」とは別の拒絶理由です。公知対策と先願対策は両輪で考えます。


例外的に救える場合(新規性喪失の例外)

やむを得ず公開してしまった場合でも、出願と同時の例外申出30日以内の証明書提出公開から1年以内に出願)など、所定の手続きを満たせば救済されることがあります(グレースピリオド)。ただし期限管理と立証資料が要点です。


実務でのチェックリスト

  • 公開前に出願:プレス・SNS・展示会・販売の前に出願する計画を。
  • 社外向け説明はNDA徹底:秘密保持なしの説明・配布は公知リスク。
  • Web公開の痕跡管理:公開の有無・時期を社内で管理(タイムスタンプ等)。
  • 先願調査:公知だけでなく、他社の先出願も必ず調べる。
  • 例外の適用可否:公開が生じたら即時に日付・態様を特定し、例外申出の準備。

まとめ

  • 新規性は「出願前に公知・刊行物・ネット公開になっていないこと」+「それらと類似の意匠も不可」。
  • 判断は時刻レベルで行われ、小規模公開や限定公開でも秘密保持が無ければ公知
  • 公知リスクと先願は別物。公開前出願先願調査が基本動作。
  • 既に公開した場合はグレースピリオドの期限・証明対応を迅速に。

デザインの発表・発売スケジュールと出願のタイミング設計が、新規性確保の決め手です。計画段階からご相談いただければ、公開・先願の双方を見越した最適な出願設計をご提案します。