全体のデザインが統一された食器一式やカトラリーセット、応接セット(ソファ+テーブル)など——複数の物品を“ひとつのセット”としてまとめて守れるのが組物の意匠です。
うまく設計すると、1件の意匠登録で複数物品を一括カバーでき、模倣対策のコスパが大きく上がります。
本稿では、組物の意匠の考え方、登録しやすい典型例、出願図面の作法、落とし穴までを実務目線で整理します。
組物の意匠とは
- 原則:一意匠一出願(7条)、例外:組物の意匠(8条)
- 意匠登録出願は意匠ごとにしなければならず、一つの意匠として出願することができるのは一つの物品等(物品、建築物又は画像)であることが原則
- 一方、二以上の物品等から構成されるものであっても、それらの構成物品等が同時に使用され、全体として統一があるときは、一意匠として出願し、意匠登録を受けることができるのが組物の意匠
- 定義の要点
- 同時に用いられる複数物品等を、統一的な美感のもとで一つの意匠として保護
- 対象は「物品等」のセット
- 各構成物品等が同じような造形処理、まとまった形状や模様、または全体として観念的な関連性で統一されていることが重要
- 経済産業省令で定める組物の意匠に該当する必要あり
- 使うメリット
- 1件で複数物品を一括権利化(年金管理も1件分)
- 「セットで似せる」模倣に対し、外観の統一性を根拠に強く対抗できる
- シリーズ展開(色違い・微修正)は関連意匠で面を広げやすい
「組物」のカテゴリー例
実務で用いられるカテゴリーの例です。案件により適否が変わるため、詳細は個別に精査してください。
- 飲食用容器のセット:皿、ボウル、カップ、ソーサー、ポットなど
- 飲食用具のセット:スプーン、フォーク、ナイフなど
- 筆記具セット:ボールペン、シャープペン、万年筆など
- 利器、工具セット:ドライバー各種、レンチ、はさみなど
- 家具セット:テーブル、いす、本棚、ソファなど
- 遊戯娯楽用品セット:麻雀卓・いす・サイドテーブル、積み木など
- 販売用品セット:化粧料用容器、包装用容器・外装・緩衝材・ラベルなど
- 身の回り品セット:指輪、イヤリング、カフスボタン、ネクタイ止めなど
- 衣服セット:衣服、下着、ベルトなど
内装の意匠は「室内空間」自体を対象とする別制度です。組物はあくまで複数の“物品等”のセットである点が異なります。
実在の登録例
タイトル | 意匠(参考図) | 登録番号 | 使われている場面 |
---|---|---|---|
一組の家具セット | ![]() | 意匠登録第1804675号 (株式会社会津松本名義) | 会津松本の「火鉢テーブル」といす |
一組の販売用品セット | ![]() | 意匠登録第1707363号 (株式会社 ポーラ名義) | ポーラ「B.A」メークライン |
一組の衣服セット | ![]() | 意匠登録第1783164号 (公益社団法人2025年日本国際博覧会協会名義) | 大阪・関西万博公式スタッフ用ユニフォーム |
一組の建築物 | ![]() | 意匠登録第1700360号 (大坪 和朗 氏名義) | 様々なバリエーションの連結が可能な建築ユニット「WOOD CHAIN」 |
一組の画像セット | ![]() | 意匠登録第1756885号 (ソニーグループ株式会社名義) | SNSのプロフィール画像を取り巻く図形で、サービス内での活動量等に応じて変化する |
実務での図面・記載の作法(強い請求にするコツ)
- 各構成物品の視図を完備
- 可能な限り「正面・背面・左右側面・平面・底面+斜視図」。
- 共通モチーフ(面取り、エッジ、膨らみ、意匠線)を視覚的に伝える。
- 全体の関係性を示す参考図
- セットを同一縮尺で並置した図、収納状態(ケースに収めた状態)などを参考図として併記。
- 統一的美感の理解を助ける。
- 実線/破線の使い分け
- 権利の芯とする形状は実線、非本質部や位置関係のみ示す部分は破線/一点鎖線。
- 枠・影・反射表現は最小限にし、輪郭の読み取りを妨げない。
- 特徴記載で“統一性”を言語化
- 例:「各構成物品に共通する、上面周縁の連続曲率Rとそれに連なる段差形状」「全体を貫くX字リブのモチーフ」等。
- 部分意匠・関連意匠の併用
- 模倣されやすい要部は部分意匠でも確保。
- 色違い・小改変・サイズ違いは関連意匠で面展開。
侵害判断の勘所(組物ならでは)
- セット全体としての類否で評価されるのが基本。
- 相手が構成要素を一部入れ替える、数を減らす/増やす等で“逃げ”を図るのに備え、
- 構成物品の核(たとえば「テーブル+チェア」)を明確化し、
- 要部モチーフの共通性を際立たせた図面・特徴記載にしておくと有利。
- 単体販売のみに対する差止は、組物の意匠だけでは弱くなる場合があるため、単体の意匠(または部分意匠)も併走登録しておくと堅牢。
ありがちな落とし穴
- 統一的美感が弱い
単に“同じロゴを貼っただけ”は×。形状・模様の全体的な統一性が必要。 - セット性が曖昧
現実に同時又は一連の使用範囲内で用いられる関係を意識。社会通念上一体的に流通がなされるものも可。使途・大きさ等がバラバラだと否定されがち。 - 補正で構成物品の出し入れ
構成物品等として適当であると認められるものを、出願後に追加や削除する補正は不可(不適当なものを削除は可)。最初の設計が勝負。 - 内装意匠との混同
室内空間の演出は内装の意匠。什器や物品のセットは組物の意匠——対象の線引きを明確に。
こう活かす:実務テンプレ
- フェーズ0(企画時)
競合の並置写真を収集し、共通モチーフを決める。部品群の核セットを特定。 - 公開前
基本の組物+要部の部分意匠+色違い等の関連意匠を同時設計。 - 公開コントロール
発売直後に真似されたくない場合は秘密意匠(最長3年)で公報非開示を検討。 - 運用
派生モデルは関連意匠で追随。単体売りが伸びた要素は単体意匠を増設。
まとめ
- 組物の意匠は、セットで使われる複数物品を統一的美感のもとに一括で保護できる強力な手段。
- 強い権利にする鍵は、共通モチーフの設計、図面表現の精度、部分・関連意匠による層構造。
- 単体意匠や内装意匠、商標と役割分担しながらポートフォリオ化することで、模倣耐性と運用の柔軟性が大幅に高まります。
ご相談ください
組物に適した設計可否の診断、図面・特徴記載の作成、部分/関連意匠の組み立て、秘密意匠や海外出願(ハーグ)まで、案件に最適化してプランニングします。発売・展示の前段階からの伴走が最短距離です。