「店舗外観そのものを真似された」「駅舎の顔つきをシリーズ展開で統一したい」――そんな“建物の見た目”を守るのが建築物の意匠です。改正意匠法により、建築物は物品や内装、画像と並ぶ登録対象として明確化されています。ここでは、実際の登録例とともに、出願設計の勘所を弁理士目線で整理します。
建築物の意匠とは
- 意匠法上の「建築物」:①土地の定着物であること、②人工構造物であること(土木構造物を含む)
- 対象:建築物(住宅・商業施設・駅舎・橋梁等)の外観デザイン。部分意匠でファサード等の一部のみ保護することも可能。
- 要件:新規性/創作非容易性/工業上(産業上)利用可能性/一意匠一出願などは、物品の意匠と同じ考え方で審査されます。
実在の登録例
タイトル | 意匠(参考図) | 登録番号 | 使われている場面 |
---|---|---|---|
商業用建築物 | ![]() | 意匠登録第1671773号 (株式会社ファーストリテイリング名義) | 「UNIQLO PARK」横浜ベイサイド店の外観 |
駅舎 | ![]() | 意匠登録第1671774号 (東日本旅客鉄道株式会社名義) | 「上野駅」公園口駅舎の外観 |
集合住宅 | ![]() | 意匠登録第1724947号 (大東建託株式会社名義) | 大東建託の賃貸住宅「CIEL COURT」の外観 |
飲食店 | ![]() | 意匠登録第1696686号 (株式会社桜珈琲名義) | 「桜珈琲」松原店の外観 |
どんな場面で効く?
- 旗艦店の外観やチェーン店舗の統一感確保:店舗の“顔”をコピーされにくくして、独自のブランド価値を守る。
- ランドマークのブランド化:駅舎・商業施設など公共性の高い建物の外観の新規性と識別力を担保。
- 競合の“似せ方”に網:部分意匠でキー要素を押さえると、軽微な改変での回避を難しくできます。
出願設計のコツ
- 部分意匠で“肝”だけを実線化
全体を囲うより、模倣されやすいファサードの要部を実線、周辺は破線で抑えると実効性が高い。 - 関連意匠でバリエーション網掛け
バリエーションを関連意匠で面として確保。シリーズ展開や各地仕様の派生をカバー。 - 図面・写真の作法を外さない
視点を統一(正面・側面・斜視図等)。陰影・破線のルールを一貫。要部拡大図や使用状態を示す参考図を適切に添付して“見る側が迷わない”セットに。 - 公開前出願・秘密意匠の活用
竣工前のティザー公開・設計者発表で新規性を落としがち。公開前出願が大原則。竣工直後は**秘密意匠(最長3年)**で公報非開示にして模倣の立ち上がりを遅らせる手も。
よくある落とし穴
- “機能で決まる形”は弱い
構造・避難・法規を満たすため不可避な形状だけでは創作性が否定されやすい。意匠的な選択の余地を示せる構成を。 - 施工誤差・竣工差分
図面と実物の差を“逃げ”に使われないよう、要部の抽象度(線の持たせ方)を設計段階で検討。 - 写真だけで完結させがち
写真は有効だが、線画図を併用すると権利範囲が明瞭になり、審査・係争で有利。
まとめ
- 建築物の外観は独立の意匠として登録でき、ブランドの“器”そのものを守れます。
- 実在の登録例が示すとおり、施設の顔つきは競争力の源泉です。
- 部分意匠・関連意匠・秘密意匠を組み合わせ、公開前から“設計して守る”のが成功の鍵。
建物の“顔”を資産にする――図面設計から出願戦略、チェーン展開を見据えたポートフォリオ構成まで、案件ごとに最適解をご提案します。まずは計画段階でご相談ください。