目次
はじめに
今回取り上げるのは、こちらのニュース。
・「漫画家江口寿史、SNS写真無断商用利用&トレパクで波紋 過去には古塔つみ炎上例も」(coki)
https://coki.jp/article/column/60273/
人気漫画家・イラストレーターの江口寿史氏が手がけた広告イラストに、「無断商用利用」と「トレース(トレパク)疑惑」が浮上しました。
SNS上の写真をもとに制作されたイラストが、被写体本人の許諾を得ずに使用されていたことが発覚し、批判が集まっているのです。
本件は、クリエイターだけでなく、広告制作を外部委託する中小企業にとっても無関係ではありません。
この記事では、事件の背景を整理しつつ、企業が注意すべき著作権リスクと対策を解説します。
SNS上の写真でも「無断使用」は権利侵害になり得る
今回の騒動では、江口氏がInstagram上に投稿されたモデル・金井球氏の写真を参考にし、許可を得ずに商業イラストとして使用したことが問題視されました。
SNS上の画像であっても、投稿者には著作権や肖像権があり、無断で商用利用すれば明確な権利侵害にあたります。
近年、企業や個人クリエイターがSNSの写真を「参考資料」として利用するケースが増えていますが、公開されていることと自由利用できることは全く別の話です。
商用・非商用問わず、他人の画像や肖像を利用する際は、著作権者・被写体本人の明確な許諾が必要です。
とくに広告・販促物は営利目的での使用となるため、訴訟や炎上に発展した場合のリスクは非常に高くなります。
“大物クリエイターだから許される”は誤解
江口氏は「本人と連絡を取り、承諾を得た」と述べていますが、事後的な対応にとどまり、謝罪や経緯の説明がなかった点にも批判が集中しました。
これは単に個人の問題ではなく、「有名人だから許される」「完成度が高ければ問題ない」といった風潮に対する社会的な警鐘でもあります。
広告におけるクリエイティブの信用は、「誰が描いたか」よりも「どのように制作されたか」に左右されます。
コンプライアンスを軽視した制作体制は、企業のブランド価値そのものを損なう可能性があります。
特に中小企業では、ひとつの炎上が信頼失墜につながるため、制作委託時の管理体制を強化する必要があります。
中小企業が取るべき著作権・制作管理の3つのポイント
契約書に「非侵害保証」条項を入れる
制作を外部に委託する際は、クリエイター側に「第三者の権利を侵害していないことを保証する(非侵害保証)」旨を明記して契約を行います。
これにより、問題発生時の責任範囲を明確化できます。
参考資料や生成AI素材の出典を管理・保存する
制作の過程でどの素材を使用したか、どの情報を参照したかを明示しておくことが重要です。
出典管理は、後のトラブル防止や社内監査にも有効です。
社内で「権利リスクチェック」を行う
完成デザインのチェックをデザイン性だけでなく、権利面からも確認する体制を整えましょう。
とくに人物写真、イラスト、音楽、生成AI素材の使用には細心の注意が必要です。
トレースとオマージュの境界線を理解する
創作活動には参考や影響がつきものです。
しかし、他人の著作物をそのままトレースしたり、構図・特徴を模倣して発表する行為は「オマージュ」ではなく「盗用」と見なされることがあります。
この線引きは曖昧に思えますが、著作権法上は「依拠性(元の作品に基づいていること)」と「類似性」が認められれば侵害と判断される可能性があります。
「他人の作品を参考にする」こと自体は違法ではありません。
しかし、それをどの程度利用したのか、独自の創作性をどこまで加えたのかを明確に説明できなければ、結果として炎上や信頼低下を招くリスクがあります。
広告業界・クリエイターが守るべき倫理と透明性
江口氏の事例は、広告業界全体にも波紋を広げています。
SNS時代では、一般ユーザーの写真が一瞬で拡散し、無断利用がすぐに特定される時代です。
広告・デザインの現場では、制作スピードやコスト重視のあまり、倫理や法令遵守が後回しになりがちですが、今こそ「創作の透明性」が問われています。
企業が信頼を守るためには、「事前確認」と「説明責任」を徹底することが欠かせません。
誠実な対応こそが、広告効果よりも長期的なブランド価値を築く基盤となります。
まとめ:創作よりも前に「守る意識」を
今回の江口寿史氏のトレース疑惑は、クリエイター個人の問題にとどまらず、企業や自治体を含む広告業界全体の「コンプライアンス意識」を問い直す出来事です。
中小企業が安心してクリエイティブを活用するためには、次の3つが重要です。
- SNS素材・AI素材の利用ルールを社内で共有する
- 制作委託時の契約・出典管理を徹底する
- 倫理と透明性を重視したブランディングを行う
創作の自由は尊重されるべきですが、その自由は「他者の権利の上」に成り立つものではありません。
法令遵守と倫理を守った上でこそ、真に信頼されるクリエイティブが生まれます。
“創る前に守る”という意識が、これからの中小企業の広報・広告活動には欠かせないのです。