アーティスト名の商標出願についての注意点

2017年5月29日
持続可能なブランドコミュニケーションをつくる

「サムライツ™」の弁理士、保屋野です。

最近いただくご質問で、アーティスト名は商標登録できますか?
というものがあります。

まず、大前提として、どこにでもありふれている氏や名称を普通に表示しただけでは
登録を受けられません

また、他人の氏名や名称、広く知られている雅号・芸名・筆名や、
これらの著名な略称を含むものも、その”他人”に該当する人から承諾がないと、登録を受けられません

しかし、それだけではなく、
指定商品・役務(サービス)に、「録音済みのカセットテープ」、「録音済みのCD」、「レコード」等、音楽活動やビジネスに関連が深い分野を指定した場合で、
商標がアーティスト名(歌手やグループ名)として広く認識されている場合には、
その商品の「品質」を表示するものとされて、やはり登録を受けられないのです。

なんと、広く知られていれば知られているほど、かえって商標の審査では不利になってしまうのですね。

なかなかなじみにくい話だとは思いますが、
商標は、自分と他人の商品(ここでは、CDなど)を見分けるための目印であるところ、
CDに表示された、広く知られたアーティスト名は、多くの人が”CDの中で音楽を演奏している主体”、つまりCDの「内容(品質)」を示していると認識するからです。
見分ける目印として機能しないから、登録できないのですね。
他方、CDに表示されているのが、レーベル名やレコード会社名とかだと、”CDそのものを出しているところ(出所)“と認識するので、自分と他人の商品を見分けるための目印=商標認識するのが通常です。
したがって、レーベル名・レコード会社名ならこの分野でも登録できるというわけですね。

実際に拒絶された例として、ジャニーズのグループの(最近、元メンバーの事件で話題になってしまった)「KAT-TUN」なんかも、「レコード」や「ダウンロード可能な音声・音楽・映像」、「録音又は録画済み記録媒体」、「電子出版物」といった商品については、歌手名である(つまり、商標は商品の内容を表したものにすぎない)と認定されて、出願が拒絶されました(不服 2012-1723)。
デビュー曲がいきなりミリオンセラーを達成したり、メディアでも大活躍されていたので、出願当時はすでに人気グループとして広く知られていたと認識されたのですね。
(ただし、印刷物や写真の分野、映画や音楽の演奏の興行の企画又は運営等の分野では、登録を受けています)

他にも、LADY GAGA」が、「レコード」や「音楽ファイル」等の分野では商品の内容を表すにすぎないとして登録を受けられなかった(平成25年12月17日判決,知財高裁平成25年(行ケ)第10158号)など、多数の例があります。

一方で、審査官が特定のアーティスト名として認識せずに、登録を受けた例としては、「ROLLING STONES」や「METALLICA」、「NIRVANA」、「JIMI HENDRIX」などがあります。(ただし、「NIRVANA」は審査で拒絶された結果、「レコード、映写フィルム、録画済みビデオディスク及びビデオでテープ、印刷物」を削除していますし、他の分野では複数の無関係の他社が登録しています)
審査官は音楽詳しくないのか!とツッコミたくなる方もいらっしゃるかと思いますが、この辺の判断は出願の時点にもよるし、まったく無関係の会社の同名の商標が登録されている場合もあるので、とてもあいまいなんですよね。

では、広く知られたアーティスト名で商標出願が拒絶されたら、
CDや音楽配信、ライブでの演奏等の分野で一切保護されずに、誰でも同じ名前を付け放題なのでしょうか?
というと、そんなことはないので安心してください。
この場合は、不正競争防止法上の「不正競争行為」として認められる場合があり、
そういった行為を差し止めたり、損害賠償を請求したりできます。

ちなみに、海外での判断は、当然国ごとに異なっていますが、
日本とは逆に、CD等の商品についてもアーティスト名の商標登録を認める国の方が多いようです。
アーティスト名等を「出所」としてとらえているところが、日本とは異なるのでしょう。

また、米国では、2つ以上の異なる作品に使用されている証拠を提出することが求められます。
ここはまた別途気を付けるべき点です。

というわけで、日本でアーティスト名を商標出願される場合は、ちょっと注意が必要になります。